応援、というか観戦の父兄は、試合が始まる1時間程前に新居球場へ到着。
選手はアップをしていた。
コウタの具合が気になりコウタを探すと、ブルペンでサトシ相手に投球練習をしていた。
見た感じツラそうな表情はしていない。
少し安心した。
サトシの状態も気になるが、右手に包帯は見えない。
こちらも少し安心した。

スタンドに向かって「ピース」するほど余裕のサトシ。手前はセンターのコウダイ。
相手チームのブルペンに目をやると、大きくなった“彼”がいた。
彼とは、少年野球時代に対戦し、当時の6年生(コウタやサトシ、ユウなど)全員が三振に切って取られたピッチャー。
小学生の頃から、緩急を操るセンス溢れるピッチングが持ち味で、打撃のチームと自負していた三ヶ日フレンズ(当時)は彼の前に手も足も出ず、コールド負けを喫した。
またしても嫌な思い出が蘇る…。
試合開始が近づくにつれ、観客が集まってきた。
校長先生をはじめ、教頭先生、他の部活の先生もやってきた。
程なくして、三年生の父兄、そして先輩である三年生も応援に駆けつけてくれた。
なんか恥ずかしかった。
スペシャルだった昨年のチームに比べ、今年は同じ学校とは思えないほど別物のチーム。
応援してもらえるのは嬉しいのだが、恥ずかしくて見てもらいたくない、という気持ちもあった。
その中に、コウタが目標とする先輩の姿があった。
彼は背番号1を付け、“左のエース”として活躍。調子を崩し、最後の大会では背番号は3となったが、そのプレー、人柄はコウタの目標であり続けた。
中学で野球をやるか悩み、入部後も目標を見つけられずにいたコウタだが、彼と出会い、「背番号1を付ける」という明確な目標を持つことができた。練習の時には一緒にキャッチボールをしてもらい、フリーバッティングや紅白戦でコウタが投げると、真っ先にアドバイスをくれた。変化球の握りや投げ方なども教えてくれた。
コウタは、それらの出来事を家に帰ってから嬉しそうに話してくれた。
体力も、技術もないコウタが、“名門”三ヶ日中野球部でやっていけるか不安だったが、嬉しそうに先輩たちのことを話す姿をみて、「なんとかやっていけるかな」と思ったものだ。
そんな先輩の前でなんとか成長した姿をみせてほしい。
心の底からそう思った。

いろいろな想いが錯綜する中、いよいよ試合開始!
先攻は三ヶ日中学。

先頭バッターは“チームの顔”であるユウキ。
そのユウキがいきなり魅せる!
左中間を大きく破る大飛球のスリーベースヒット!
ノーアウト三塁!
試合はいきなり三ヶ日中が大きなチャンスを迎えた!!