平成27年3月22日。
この日は、『新人戦東海大会』2日目。
負ければ終わりのトーナメント方式で試合が行われる。
三ヶ日中は前日のリーグ戦で一セット足らず3位となり、
9位から16位を決める『下位トーナメント』で戦うこととなった。
全てが各県のベスト4。
下位トーナメントとはいえ、頻繁に試合を行える相手ではない。
どこもかしこも強い。
強豪との対戦を経て、さらにチーム力をアップさせていきたい。
そのためには一試合でも多く戦いたい。
さらに三ヶ日中の場合、この日が先生と一緒に戦う最後の試合。
三ヶ日中を再び強豪チームに押し上げ、
このたった6人のチームを東海大会へ連れてきてくれた先生との最後の大会。
誰しもが、「勝って送り出したい」。
そう思っていた。
トーナメント一回戦の相手は、愛知県代表の江南北部中学校。
一セット目は、三ヶ日中の速いテンポのバレーについてこれず、
25対15で三ヶ日中が先取。
二セット目に入ると、徐々に三ヶ日中のテンポに対応してきたが、
このセットも三ヶ日中が奪い、ストレート勝ちで準決勝へと駒を進めた。
ただミスが多く、デキが良い試合とは言えなかった。
負けた試合が先生との“最後”の試合。
どう負けるかも大事だが、どこに負けるかも大事。
できるだけ思い入れのあるチームに負けたいと思っていた。
もちろん、全部勝てればいいのだが、他のチームとの力関係を考えると、それは難しいことのように思えていた。
二回戦の対戦相手は、豊橋中部中学校(愛知1位)と二川中学校(愛知3位)の勝者。
二川中とは練習試合をよくやったが、
思い入れが強いのは、豊橋中部中。
練習試合はもとより、先生も、そして親も交流をしている“姉妹”チームと言っても過言ではないチーム。
「負けるならここだ!」
そう心の中で叫びながら試合展開を見守った。
フルセットに及ぶ熱戦の末、勝ち上がってきたのは二川中。
なんとも複雑な心境になった。
二川中は三ヶ日中と同タイプの“拾いまくる”チーム。
なんとなくだが、この手のタイプのチームは苦手。
我慢比べに負け、地味に敗退する。
そんな感じがしていた。
「この試合が先生との“最後”となる可能性が高い」
そんな気配を感じていた。
試合は案の定、お互いに拾いあう展開。
一セット目からラリーの応酬が続く。
一進一退の攻防の中、先に根を上げたのは三ヶ日中だった。
デュースまで持ちこんだものの、30対32で落としてしまった。
「このまま地味に負けそう…」
そんな気が、どんどん大きくなっていった。
コートチェンジの間、先生は子供たちに指示を与えていた。
先生にとっても、三ヶ日中での“最後”の試合。
簡単に負けるつもりはなかった。
二セット目に入ると、三ヶ日中が急に息を吹き返した。
次々と得点が決まり出す。
これまでも何度かあったのだが、
接戦で第一セットを取られた後に、急に動きが変わり、第二、第三セットを連取し、勝つことがあった。
先生がどんな魔法を使っているのかは知らないが、
この試合も三ヶ日中は息を吹き返した。
第二セットは、三ヶ日中が25対17で取り返すと、
第三セットも取り、三ヶ日中が決勝進出を決めた。
決勝と言っても『下位トーナメント』。
そんなに価値はないかもしれない。
だがこれは先生との“最後”の大会。
子供たちはもちろん、我々にも大きな価値があった。
隣のコートでは、決勝進出を懸け、もう一つの準決勝が行われていた。
ここまで来れると思っていなかったので、反対側の組み合わせを全く見ていなかった。
どこのチームが戦っているのかさえ知らなかった。
しばらく先生と談笑しコートへ戻ると、決勝戦のカードが発表されていた。
ボードに貼り出された紙に目をやると、
「!!!!!!」
そこには「三ヶ日中学校vs伊東南中学校」と書かれていた。
伊東南中は静岡県の2位代表。
新人戦の県大会の準決勝で三ヶ日中が対戦し敗れた相手。
それがこの伊東南中だった。
これほど、先生との“最後”の試合に相応しい相手があるだろうか。
先生と“最後”となる大会が、ずっと目標にしていた『東海大会』。
しかも会場が、汗と涙がたっぷり染み込んだ『三ヶ日中学校体育館』。
さらに、“最後”の試合は、下位トーナメントとはいえ、『決勝戦』という舞台。
そして何より、“最後”の相手が、県大会で敗れた『伊東南中学校』という好敵手。
漫画や映画でも「やりすぎ」と言われそうな演出の中、
先生との“最後”の戦いは、“絶対に負けられない戦い”になった。