県大会を決めた後も、練習は精彩を欠いた。
とにかく気持ちが全く入っていない。
試合でのミスを、その翌週の練習で徹底的に練習するのが三ヶ日中のスタイルだったはず。
そんな練習を、入部した時からずっとやってきていた。
欠点が何で、練習べきことは何かは、彼女たちが一番分かっていた。
にも関わらず、やらなかった。
その練習風景は実に楽しそう。
緊張感のかけらもない。
“ママさんバレー”を見ているかのようだった。
心の底からどうでもよくなっていた。
正直、何をすればいいか、全く分からなくなっていた。
“話し合い”の後しばらくは、話をすると、彼女たちの心に刺さっているのがよく分かった。
情熱を持って話をすると、涙を浮かべ、頷きながら話を聞いてくれた。
「これなら気持ちも戻れる」
そう思っていた。
だがそれは、長くは続かなかった。
特に県大会出場が決まってから、話が彼女たちに刺さることはなかった。
もちろん、一部の子には刺さっているかもしれない。
だが、バレーがチームスポーツである限り、みんなが同じ気持ちにならなければ意味がない。
気持ちが離れている子が綻びとなり、チームは、あっという間に“ビリビリ”に破れてしまう。
「万策尽きた」
とはこのこと。
東海大会への道は、完全に“閉ざされた”。
そんなある日、三年生のお父さんが話かけてきた。
「まだやれること、あると思うんですけど…」
「えっ!?もうないよ。終わってる」
「それでも何かあると思うんですけど…」
「もうない。こっちでやれることはない」
まだやれることがあるはず。まだ諦めたくないと主張するお父さん。
一方、コッチは「やれることはない」の一点張り。
だが最後は、そのお父さんの熱意に負け、その“何か”を探すことにした。
一番の問題は“気持ち”。
言葉が刺さらない今、こればかりを考えていても前に進めない。
別の問題点はなんだ。
バレーの質。
今までできていたはずの、自分たちがやっていたはずのバレーができなくなっていた。
新しいことをやるのではない。
今までのプレーを取り戻すだけ。
だが、それが一番難しかった。
彼女たちに指導した先生は異動し、新しい先生がきた。
新しい先生ももちろん、バレーの“プロ”。
確固たる指導理念の元、勝つための指導をしてくれている。
ただ、彼女たちが教わってきたバレーはいわば“非常識”なバレー。
基本的なことは一緒でも、ディテールに大きな違いがあった。
それを教えてくれる先生はもういない。
そのバレーを見てきたのは我々だが、助言などできるはずもない。
どうすれば今までやってきたバレーを取り戻すことができるのか。
そればかりを考えていた。
すると、あるひとつの答えが出た。
考え抜いた割には、実に簡単な答えだが、間違いなく、それは“正解”だ、と確信できた。
その答えとは、
「子供たちに聞く」
だった。
今まで彼女たちが教わってきたことは、全て彼女たち自身が知っている。
体の中の引き出しに仕舞い込んであり、蜘蛛の巣が張っているかもしれないが、
間違いなく、彼女たちは知っている。
それをいかに呼び起こすか。
これこそが答えだった。
そこで、簡単なシートを作り、みんなに配布。
サーブの種類やカットのフォーメーション、攻撃バリエーションなどなど、
思いつくモノをシートに書き出させた。
思いついたらすぐに書けるよう、多めに配布した。
文字だけの子もいれば、
ローテーションごとに何枚も書く子もいた。
もちろん同じモノもたくさんあったが、
見たこともないようなことが書いてある子もいた。
そのシートには、彼女たちが取り戻すべきバレーが、ぎっしりと書き込まれていた。
ずっと閉じたままだった引き出しが、遂に開いた。
土曜日からの3連休は、県大会へ出場するチームとの合同練習会。
合同練習会といっても、実態は練習試合。
練習試合だからこと期待した。
引き出しが開いた彼女たちプレーを取り戻すことを期待した。
“勝ちまくる”ことを期待したのだ。
だが結果は散々。
負けに負けた。
最後の“賭け”に負けた。
日程終了後、他チームの先生が寄ってきてこう言った。
「三ヶ日の子たち、疲れでバネがなくなってるぞ」
動きが悪いのは、単に練習不足だと思っていた。
それがやりすぎだったとは…。
ただ、「疲れが取れれば戦える、かも」
とにかくあと一週間。
やれることをやるしかない。
クエン酸が疲れに効くと聞けば飲ませ、
疲れが取れる入浴方法があると聞けば、その日のうちにみんなに伝えた。
合同練習会二日目。
なぜだか、
動きが“戻って”いた。
バラつきはあるものの、とにかく拾いまくるバレーが蘇っていた。
一体何があったのだろう。
引き出しを開ける、という作業が、一日遅れて効果を発揮し出した。
そう思うようにした。
その動きの良さは、三日目まで続いた。
待ちに待った、
“復活!”
これで、大きな期待を持って、県大会に臨めそうだ。
ここから先、三年生にとっては全てが“最後”の試合。
負けたらそこで中学校でのバレーは“終わる”。
県大会でベスト4に入れば東海大会へ進めるが、
いつか必ず負けて“終わる”。
勝って終われるのは、全国でただ一校のみ。
現実を見れば、どこかで負けて“終わる”のだ。
大事にしたいのはこの終わり方。
どのようかカタチで、
どうのような状況で、“終わるか”だ。
地区大会で三ヶ日に負けたチームは、
一様に、“美しい”負け方をした。
全てのチームが、気持ちを前面に押し出し、
その情熱的なプレーは、観る人に大きな感動を与えた。
終わったしまった悔しさはもちろんあっただろう。
だが選手たちの表情は、充実感に満ち溢れたいた。
応援席の父兄も、心の底から感激し、最大の賛辞を送っていた。
ただその光景を眺めていただけだったのだが、心が熱くなった。
目指すべき、
理想とする終わり方は、
地区大会で、全てのチームが見せてくれた。
その感動的なフィナーレの最大の要素は“気持ち”。
「絶対に勝つ!」という強い気持ちを、
相手よりもその気持ちを出せるかどうかこそが全ての鍵。
その鍵を持っているのは誰でもない、彼女たち自身。
彼女たちには、人々を魅了し、大きな感動を与えて終える権利がある。
彼女たちがこれまで歩んできた道程には、
どこのチームよりも大きな“価値”がある。
そう、思っている。
“最後”の県大会は来週の月曜日から始まる。