10月6日。
この日は新人戦2日目。
いよいよ三ヶ日中野球部の“初戦”となる2回戦が行われる。
この新人戦は全国大会へと繋がる大会。
一昨年は三ヶ日中は県大会を制し、全国大会へ出場した大会だ。
新チームになって以降、この大会を最初の目標として頑張ってきた。
今年のチームは“衝撃的”な谷間の年となるため、他校ではやらないような基礎練習から始まった。
そもそも“ボール回し”すらできないチームだったため、ボール回しを延々と行うことも多々あった。
「体力がなければ練習にも耐えられない」
ということもあり、体力トレーニング、わかりやすく言えば“走る”ということもトコトンやった。
それも炎天下の中。
基礎トレーニングを繰り返し、トコトン走る。
そんな練習はお盆前まで続いた。
おかげで体力は“相当”高いレベルまで上がった。
ただその分、他校よりも練習試合の消化が少なかった。
実戦経験が少ない分、練習試合では負けに負けた。
雨にも、嫌というほど祟られた。
それでも9月の半ばを過ぎた頃から内容が“グッ”と向上。
少しずつだが、勝率も上がってきた。
夏に頑張った成果が、ゆっくりとだが、出始めていた。
そんな中で新人戦を迎えた。
起きると、コウタが食パンを“チビチビ”と食べていた。
“ゴホゴホ”と咳が頻繁に出ていたため、パンがこぼれないよう手で口を押さえ、慌ててオレンジジュースを口に運び、パンを流しこんでいた。
その姿は“明らかに”体調が悪そうだった…。
準備を終え、自転車で学校へと向かおうとしていたが、
「送ってこうか?」
と声をかけた。
コウタは一瞬躊躇したが、頷き、車に乗り込んだ。
しばらくの沈黙の後、コウタに聞いた。
「何!?具合悪い?」
「……まあ」
コウタの額に手をやると、明らかに熱い…。
「おい!熱あるゾ!」
「……そう」
コウタは前日、すでにこの日の先発を言い渡されている。
体調が悪い状態でマウンドに上がればチームに迷惑がかかる。
「ダメそうだったらすぐに監督にいいなよ。わかった?」
「………」
自分たちの代になって初めての公式戦。
その技量とは似つかわしくもない背番号をもらい、しかも前日に先発を告げられている。
なんとしてもマウンドにあがりたい。
その気持ちは充分過ぎる程伝わってきた。
「やるなら、具合の悪いそぶりは絶対に見せるなよ!」
「うん、わかった」
大きな大きな不安とともにコウタを学校へと送り、そのままバスを見送るために学校に残った。
子供たちが続々と集まってきた。
真っ先にサトシを探した。
サトシの右手にはグルグルに包帯が巻かれていた。
サトシは前日の練習試合でファールチップを右手に受け、そのまま病院に直行していた。
骨には異常がなかったようだが、ボールを受けた右手は大きく腫れあがっていた…。
不安が増したのは言うまでもない…。
程なくすると監督が到着。
挨拶の後、言葉をかけた。
「対戦相手、どこになりました?」
前日に1回戦が行われていたため、監督は対戦相手を知っていた。
「北星中です!」
「!」
北星中は、コウタが少年野球の時に“ボロボロ”に負けたチームの子が多く所属するチーム。
そのチームは小学校時代、ユウキが所属していたチームでもある。
さらにそのチームには、コウタが幼少時代に過ごしたアパートの1階に住んでいた“幼馴染み”がいる。
そのチーム相手にコウタが登板したことがあったが、嫌になるほど“打たれに打たれた”ことを思い出した。
なんの因果か、最もやりたくない相手と初戦を戦うことになってしまった…。
6時15分頃、選手を乗せたバスは、会場となる新居球場へと出発。
大きな大きな不安とともに、新居球場へとバスは向かった。