6月30日、日曜日。
この日は中体連野球大会浜松予選二日目。
いよいよシード校が登場。
“第4シード”の三ヶ日中学の初戦となる。
相手は1回戦を勝ち上がった開成中学。
延長戦の末の勝利で波に乗っていると思われ、「いかにペースを握るか」が鍵となりそうだ。
試合開始前、グランド担当の三ヶ日中の1・2年生がグランド整備に走る。
なんとなくコウタを探すと、マウンドを一生懸命、丁寧にならしていた。
(そこは自分でやりたいんだ)
などと思いほくそ笑んでいると、開成中が円陣を組み始めた。
そして威勢のいい掛け声とともにその輪はほどけた。
(超気合い入ってんな…)
少し心配になった。
どんな大会でも初戦の入りは難しい。
思い切ってやろうと思うと雑になったり、
慎重にやろうと思うと固くなったり、
要は“プレッシャー”が尋常じゃない。
強豪チームが初戦で敗退するケースは頻繁にある。
ちなみにスポーツは違うが、先のワールドカップも、オリンピックも、優勝候補(ワールドカップは優勝)のスペインは初戦を落としている。
現在開催中のテニスのウインブルドンでは、先の全仏オープン覇者で元世界ラインキング1位のラファエル・ナダルが初戦で敗退。
それだけ初戦の入りは難しい、ということになる。
三ヶ日中の選手たちが円陣を組むためベンチから出てきた。
「んっ!?」
円陣を組むと思ったのだが、ベンチ前に一列に並んでいる。
「んっ!?なんだ!?」
初めて見る光景。
「タ~タタッタタッタタ~」
ミヤタくんが何やら大声で叫んだと思った次の瞬間、彼らは大声で歌を歌いだした。
球場の外にいても聞こえる程の大きな声で歌を歌った。
上手い類の歌い方ではない。
腹の底から、力の限り発せられたその声は怒鳴っているようにも聞こえた。
まさに“魂の叫び”!
泣いても笑ってもこの大会が最後。
この大会で3年生の中学野球は終わる。
この歌は彼らの決意の表れ。
「必ず勝つ!」という強い意志を表したモノなのだ。
その歌が何の歌か気付いた瞬間、
身震いが止まらなかった。
目頭が熱くなった。
“その歌”は“三ヶ日中の校歌”だった。
スタンドの観客はみんな三ヶ日中のベンチを覗きこんだ。
相手チームの応援席もみんな、三ヶ日中のベンチ前で張り裂けるように歌う選手たちにくぎ付けになっていた。
“新たな伝統”の誕生を目の当たりにした瞬間だった。
歌い終わった彼らは一様に“笑顔”だった。
試合はまだ始まっていない。
それでも球場全体を包む雰囲気、ペースは三ヶ日中のモノとなった。

試合は三ヶ日中が初回に3点を先制。その後も三ヶ日中ペースで進む。

投げては、もはや“大エース”の貫録漂うタカシくんが“怪”投を魅せ、3回終了時点でパーフェクト。
その後も打線は爆発を続け、終わってみれば5回コールド勝ち(15対0)。
これで“ベスト16”。
浜松から県大会に出場できるチーム数は“8”。
次の試合に勝てば県大会出場。
相手は“強豪”天竜中。
プレッシャーは

大きな声と、

笑顔で跳ね退けろ!!
県大会を懸けた一戦は7月6日。
頑張れ三ヶ日中野球部!!