「先輩たちに優勝を…」
中体連が始まる少し前、コウタのLINEのコメントがこの言葉になっていた。
この一ヶ月間、ほとんどの下級生は3年生のサポートに回り、ボール運びや球拾い、グランド整備を行っていたようだ。
コウタの仕事はもっぱら“マウンド”の整備。
ピッチャー陣が投げやすいよう、丹念にマウンドとブルペンを整備していた。
トンボでならし、水をかけて手でへこみを埋め、さらにトンボでならす。
この作業を納得するまで繰り返すのだが、視線はどうしても先輩たちの姿を追ってしまう。
少年野球時代にスーパースターだった選手を多く擁する今年の3年生の目標は“県大会優勝”。
あと一歩までは迫ったのだが、未だ目標は達成できていない。
残す大会はこの中体連のみ。
この大会がラストチャンスだ。
とりわけ下級生がサポートに回ってからは練習に対する取り組みも大きく向上し、チーム力も大きく上がった。
実際、強豪チームとの練習試合では白星を重ねた。
特に、“大エース”となったタカシくんの安定感は抜群で、失点することが珍しい程になっていた。
中体連の初戦は危なげなく勝利し、チームは万全と思えたのだが…。
7月6日土曜日、この日は中体連3回戦の対天竜中学との試合が行われた。
この試合に勝ったチームが県大会へと駒を進める大一番。
相手は“強豪”だが、初戦の戦いを観る限り「大丈夫だろう」という思いを抱きながらこの日を迎えた。
私用があったため、会場である細江球場へ到着した時にはすでに試合は始っていた。
試合は“案の定”両エースによる投手戦。
スコアボードには“0”が並ぶ。
“0”が並んでいるのだが押してるのは天竜中。
観るからに“エース”のタカシくんの調子が悪い…。
それでも相手に得点を許さず試合は中盤へ。
と、ここで大事な用事を思い出した!
試合観たさに慌てて家を飛び出したため、肝心な私用を忘れてしまっていた…。
しかも今すぐやらなくてはいけない用事…。
悩んだが、ここは細江!
自宅のある三ヶ日はすぐ隣!!
車をブッ飛ばし往復すればきっと終盤には間に合うはず!!
一旦グランドを離れた…。
好投手同士の投げ合い。
どうしても試合展開が早くなる…。
大事な私用を済ませ、慌ててグランドへ戻った。
混みこみの駐車場に適当に車を停め小走りでグランドへ向かう。
グランドの縁を進むと視界にスコアボードが入ってくる。
それを横目で観ながら小走りでバックネット裏へと向かう。
「えっ!?」
スコアボードが見えた時、足が止まった…。
試合は0対1。
天竜中がリードしていた…。
さらに試合は、最終回裏、三ヶ日中の攻撃になっていた…。
もはやパニックになっていた…。
「なんで?なんで?…」
心の中で呟きながら小走りでバックネット裏へ向かった。
バックネット裏に着くと知り合いを探し、簡単に状況を説明してもらいパニックは収まったのだが…。
どうやら“エース”のタカシくんは右肩に痛みがあり、水曜日から一切投げていなかったらしい。
この日も痛みに耐え投げていたのだが、4回を投げ切った所で限界をむかえマウンドを降りたようだ。
失点シーンは6回の表。
誰しもが「ファール」と思った打球が「フェア」と判定され失点…。
監督が抗議をし、審判団が協議したようだが、判定は覆らなったようだ…。
試合は最終回ツーアウトランナーなし…。
敗色濃厚…。
コウタが憧れた先輩たちの中学野球が終わる…。
涙を“グッ”と堪え、ネクストバッターサークルに目をやった。
そこにいたのはケンタロウくんだった。
ケンタロウくんは、チーム結成当初からこの大会直前まで“背番号1”を背負った左のエース。
チームのムードメーカーであり、元生徒会長。
コウタが最も目標とする先輩だ。
自分がこうして3年生のことを心底応援したいと思ったのも彼のお陰。
試合を観に行くたびに「あの人だれ?」と3年生が不思議そうな顔でコッチを見ている時に、いつもケンタロウくんが「コウタのお父さんだよ」と説明してくれていた。
そのおかげでみんがどこでも挨拶をしてくれるようになり、どんどん3年生のことが好きになっていった。
調子が上がらず背番号が変わったが、腐ることなど一切なく、チームの勝利のために、バッテリーの次に相手バッターに近いファーストから、大きな声を武器に相手と戦い続けた。
そんな彼が“あとひとり”の場面でバッターボックスへ向かう。
正直、“最後のバッター”がケンタロウくんで良かった、と思った。
キャプテンと共にチームを引っ張り続けたのは間違いなく“彼”。
幕引きする人材としては相応しい。
無理やり事態を納得させようとそんなことを思っていた。
ネクストバッターサークルからバッターボックスへ向かうケンタロウくんは、バッターボックスに入る直前にバットでベンチを指し、
「任せろ!!」
笑顔で叫んだ。
それに呼応するかのように、ベンチも一斉に湧き上がった。
もう涙が止まらなかった…。
両手で口元を押さえ嗚咽を隠したが、目からは涙がとめどなく流れた…。
流れは完全に天竜中。
三ヶ日中がこっから追いつける要素など微塵もない。
それでもケンタロウくんは、3年生全員は諦めていなかった。
小学校の時から一緒に野球をやっていた子たちが多い今年の3年生。
彼らはおよそ7年もの間、一緒のチームで野球をやってきた。
その子たちと一緒にできる最後の試合。
そう簡単に諦めるわけにはいかないのだ。
ケンタロウくんは初球を“フルスイング”した。
背筋が震えた…。
この場面、果たしてどれだけの子が初球から振ることができるだろうか。
ケンタロウくんは出塁したものの、試合は終わった…。
涙が止まらず、その場から動けなくなっている私の目の前を3年生が通り過ぎる…。
かける言葉が見つからなかった…。
コウタともすれ違った。
コウタの目は真っ赤だった…。
心の底から勝ってほしかったのだ…。
7月9日。
新チームは今日から始動。
コウタの話では「今日はたぶんミーティング」とのことだった。
20時過ぎ、携帯が鳴った。
番号を見ると家からだった。
何事かと思い電話に出ると、声の主はコウタだった。
「どうした!?」
「オレらの目標決まったよ!」
どうやらやはり、今日はミーティングだったようで、“目標設定”をしたようだった。
現在高校1年生の時は、春に県大会で優勝し全国大会へ出場。
今の3年生は、“王者”東海大翔洋中を“あと一歩”まで追い詰めた県大会ベスト4。
コウタたちの代は、おそらく三ヶ日中野球部史上最も弱い年。
先人に申し訳なるほど、大きな大きな“谷間”。
そんな彼らが目標を立てた。
その目標とは
“県大会優勝”
3年生と同じ“県大会優勝”を目標とした。
三ヶ日中の伝統は、きっとこうして紡がれてきたのだろう。
試合後、コウタのLINEのコメントが変更されていた。
「頼りになる先輩はもういない…」
何があろうが、人は前へと進まなければならない。
どんなに嘆こうが、過去に戻ることはできない。
いかなる状況であろうとも、振りかえらず前を向くしかない。
今度はコウタ自身が頼られ、目標とされる番。
目標としていた先輩のように、常に前を向いて進んでほしい。
3年生のみんな、本当にありがとう!
君たちはホントに自慢の先輩でした!
その熱い気持ちと笑顔を持って、高校でも頑張って!
いつも、試合や練習を見に来ていただきありがとうございました!
本当にこのブログで取り上げて頂く度、
ぼくの原動力となっていました。
人に認められることがこんなに力になるなんて...。
本当にありがとうごさいました!
コウタくんへ
これからどんなことがあっても、
お父さんと二人三脚でがんばれ!
また、なんかあったらいつでも相談しにこーい!
╋恋√renくん
コメントありがとう!
結果はとても残念でした。
でも、ほんとうに、本当に、ありがとう!!!
君のプレーが、行動のひとつ一つが、コウタにとって勉強でした。
君のような人間になれるか…。
コウタは一年かけて君を目指すことでしょう。
ありがとうございました!
私は大学まで野球をやっていて現在は引佐高校野球部の外部コーチとして野球に携わっています。
子供もいますので野球選手としての気持ちも親としての気持ちもすごくわかります!
ブログ主さんは強いですね!!
自分の子供が実際にそのような状況になった時に子供を支え見守りつつ導いていくことは容易にできることではないと思います。
応援していますのでがんばってください!
これからもブログも見させていただきます。
本当に子供達はすごいですね。最後まであきらめず頑張って。頭が下がります。
私ごとですが息子は相変わらず、コツコツ一人やってるけど、私がくじけてしまいそうになって、ピッチャーになれなくとも何かえられるのではと、諦めない息子見て思ってます。
ブログを読んで私が、元気貰ってます。
まだ、みんなこれからだ
お久しぶりです。
細江中学も新チームになり始動しています。今年は、どんなチームになるか
楽しみにしています。
顧問の先生から試合日程表をいただき、、“ここはガッツさんのチームだ”、“ここはあの子が居るチームだ”とか色々見どころがあります。三ケ日中学さんとは10月に組まれていました。こちらも楽しみにしています。
それでは、またお会いした時には声をかけてください。
まるちゃん鍼灸整骨院さま
コメントありがとうございます。
大したことをしているつもりは全くありません。
同じ状況になれば、誰しも同じようなことをするのではなでしょうか。
子供には、終わったことをいつもまでも愚痴グチ言うような子には育ってほしくない。
どんな困難にぶち当たろうと、常に前を向いて生きてほしい。
そう思っています。
そうなってほしいのであれば、まず親がそうあるべきだと思い、コレをはじめました。
今のところはそういう子に育っていると思います。
小学校の時は、気持ちだけでなんとかなってきた野球ですが、中学になり、いよいよ気持ちだけではどうにもならなくなってきた感があります。
たぶん、新たな困難が目の前に迫っています。
それにぶち当たった時、どういう対応をするのか。
今から楽しみです。
またコメントください。
やまさん
コメントありがとうございます。
やるのは子供。
親は見守ることしかできないですもんね。
諦めずに頑張る!
これ以上に素晴らしいことはないのではないでしょうか。
頑張れ、やまさんの息子さん!!
背番号8さん
コメントありがとうございます。
すでに練習試合が行われたようですね。
強豪チーム相手に1勝1敗だったようで。
凄いですね。
ウチは練習試合どころではありません…。
詳細は近々アップしますが、紅白戦がボロボロ…。
試合になりませんでした…。
練習試合10月ですか…。
新人戦の月ですね…。
試合になるか心配です…。
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