3月15日。
この日は「全日本軟式野球大会」の支部予選準決勝。
この試合に勝てば、県大会出場が懸るブロック大会へ進出となる。
準決勝の相手は“強豪”引佐南部中。
公式戦では二度対戦し、一度は延長で敗れ、一度はサヨナラ勝ちと成績では五分五分だが、下馬評では引佐南部中が上。
両チームともに好投手を擁するだけに、ロースコアの“投手戦”が予想される。
試合は案の定、両チームのエースによる投手戦に。
3回まで両チーム0が並ぶ。
試合を優勢に進めたのは三ヶ日中。
毎回のようにスコアリングポジションにランナーを進めるが、あと一本が出ず、なかなか得点を奪えない。
そんな中、先制したのは引佐南部。
4回表、ミスに乗じて1点を先制された。
以前ならこのままズルズルと得点を奪われるところだが、冬を越えてからというもの、ここから粘れるようになった。
無論、チームとして焦る様子はない。
観ているコッチも比較的落ち着いて観ていられた。
すると5回裏、同点に追いつく。
この時点で負けないような気がしていた。
エラーもある。
走塁ミスもある。
サインミスもある。
この試合でも多くのミスが出た。
それでも負ける気がしなかった。
“この冬、絶対にコイツらの方が練習した”
勝手にそんなことを思うと、自然と負けないような気がしてしまった。

最終回裏、キャプテンのタカアキがホームを駆け抜けサヨナラ勝ち。

三ヶ日中は、県大会出場の懸る「ブロック大会」への出場を決めた。
もう一試合は“王者”細江中がラクラクと勝ち上がりブロック大会進出。
続いて行われた決勝戦。
初回にエラーから1点を先制される苦しい展開。
そもそもコウタたちの年代は、小学校時代から細江には一度も勝ったことがない。
秋口の練習試合ではピッチャー陣がメタクソに打ちこまれコールド負けしていた。
確かに強くなった。
だが、細江には歯が立たないと思っていた。
内野手のわずか数m後ろに外野手が位置する細江に対し、三ヶ日の外野陣はフェンスに張り付くほど後ろに守っていた。
“強者”対“弱者”。
守備体系を観る限り、そう思えた。
試合は先発の1年生ピッチャーが踏ん張り、ピンチは招くものの得点を許さず、1対0の膠着状態のまま試合は進んだ。
わずか数ヵ月前のことを思えば、実によくやっている。
粘り強くなったチームに目を細めながら試合を観ていたのだが、5回裏、追いついた。
さらに6回裏に勝ち越すと、そのまま逃げ切り優勝。

最後は“あわやホームラン”という打球をカズマが立て続けに捕球しゲームセット!
今年のチームとして、初めて細江に勝利した。
初戦から全ての試合が1点差。
その全てに勝利した。
各チームとも差はほとんどない。
ほんの僅かな運が勝敗をわける。
各チームとも一生懸命に練習している。
だが、“俺たちの方が練習した”と思えることは逆境に抗う大きな力となる。
この優勝は“練習すれば強くなる”ということを実感できた、という部分では大きな価値がある。
だが、まだ何も勝ちとっていない。
これで県大会への挑戦権を得ただけだ。
浜松支部、浜北支部、天竜支部、そして浜名湖支部。
これらの支部予選を勝ち抜いた8チームで、たった二つしかない“県大会出場”の座を争うことになる。
あと2回、あと2回勝ちたい。
そうすれば目標が現実のモノとして見えてくる。
“県大会優勝”という目標が。