この合宿で“やっと”キャプテンが決まった。
ユウキかコウタかタカアキかで監督も随分頭を悩ませたようだが、キャプテンはタカアキに決まった。
以前コウタは「オレ、ピッチャーじゃなくてもキャプテンでファーストでもいいなあ」なんて言っていたこともあったが、これでピッチャーに専念、“背番号1”を目指すことになった。
コウタがどう思っているかはわからないが、これはプレーヤーとしての期待の表れ。
「ピッチャーとしてチームに貢献してほしい」という監督の想いなのだ。
コウタが“背番号1”を競うのは“怪物”1年生左腕。
球のスピード、変化球のキレ、全てがこの1年生の方が上。おまけに体も大きい。
実は2年生の中で最も下級生にポジションを奪われそうなのがコウタ。
その差は誰の目にも明らかで、もちろんコウタ自身も自分が置かれている状況を充分過ぎるほど理解している。
だから上記のような言葉がついつい口に出てしまったのだろう。
普段の練習もピッチャー以外をやっていない。
むしろやらせてもらえない。
1年生左腕はバッティングもいいため、時折外野練習に参加しているが、コウタが外野練習に参加することはない。いや、やらせてもらえない。
“マウンド”か、それとも“ベンチ”か。
それが今のコウタの状況だ。
コウタは彼とは違う特徴、個性を見出さなければ、すぐさま“ベンチ”ということになる。
強化合宿2日目。
この日は光が丘中学との合同練習。
現天竜王者である光が丘中だが、5期連続で浜松予選を勝ち抜き、中体連の県大会に出場している強豪校。
どんな練習をしているのか、興味深々で光が丘中へと向かった。
光が丘中野球部の部員数は(たぶん)11名。
19名の三ヶ日中野球部よりも遥かに少ない。
体格も特別大きい子がいるわけでもなく、三ヶ日と似たか寄ったか。
練習への興味が一層沸く。
練習は“やはり”工夫されていた。
アップの後、いきなりノックになったのだがこれが実に面白かった。
なんと「トンネルしろ!」と言うのだ。
内外野関係なく、みんなが内野の守備につき、次々にトンネルをしていく。
他チームの練習なので詳細は控えるが、とにかく練習の工夫が見事だった。
午後に入りキャッチボールとなったのだが、これもまた工夫の連続。
少人数ながら強豪チームであり続けられる理由の一端を観ることができ、感動にも近い感情を覚えた。
そしてもうひとつ目を引いたのが声の“質”。
それも三ヶ日中の選手の声の質だ。
キャプテンに就任したタカアキを中心に、質の高い声で練習をより効果的なモノへと変えていった。
昨日の北浜中の練習同様、戸惑いながらの練習。
それでも“何か”を得ようとする想いがヒシヒシと感じられた。
この日もノックのサポートをしていたユウキは真剣な表情で練習を見つめながらノックをする監督へボールを渡していたのだが、監督に何やら耳打ちすると、グローブを持ってショートの守備へついた。
もちろんスローイングはしない。
捕球して投げるふりをするだけ。
これを真剣な表情で繰り返した。
ユウキはきっと“その中”にいたかったのだと思う。
今までに一度もなかった“その”雰囲気の中にいたかったのだと思う。
今日この日、チームは動き出した。
自らアクションを起こしたユウキの行動にそれが表れている。
チームは大きく前へと動き出したのだ。
そんな中、ひと際目を引いた選手がいた。
誰よりも大きな声でボールを呼び、ガムシャラに前へと突っ込み、一心不乱にボールを追い続けた。
決してカッコいいプレーではない。
しかしながら、その悲壮感すら漂うそのプレーから目を離せなくなっていた。
胸を締め付けられそうな想いが沸きあがってくる。
なぜか瞼には涙が今にもこぼれそうなほどたまっている。
その視線の先にいたのは“コウタ”だった。
「なんか、コウタ凄くない?」
サトシのお父さんが声をかけてきた。
その声は明らかに震えていた。
真っ赤な目をしたまま振り向くと、サトシのお父さんの目も真っ赤だった。
コウタのガムシャラさがチームに伝染し、観ている我々の方にまでそれが伝わってきた。
コウタのプレーには、退路を断たれたことによる、ある種の“決意”が感じられた。
その想いがサトシのお父さんにも伝わったのだ。
「絶対に“背番号1”を付ける!」
そんな想いがプレーから恐ろしいほど感じられた。
ガリガリのコウタだが、その体の中には熱く熱く燃え盛る炎のような情熱がある。
それこそがコウタの個性。
情熱と責任感でサトシの構えるミット目がけてクソ遅いボールを投げ込む。
コウタの炎は打たれても打たれてもきっと消えることはない。
仲間を信じ、最後には勝利を呼び込む。
自分に対する“責任”と仲間に対する“信頼”。
それを備えたピッチャーこそが、きっとコウタが目指すカタチ。
一朝一夕にプレーは上達しない。
しかし、大きく前進し、薄っすらではあるが、チームのカタチが垣間見えた合宿だった。
と同時に、個々のレベルアップの必要性を感じた合宿でもあった。
当面はこの2チームが目標。
ともに隣の支部のチーム。
三ヶ日が支部予選を勝ち抜けば対戦することもあるだろう。
現時点ではとてつもなく差がある。
その時までにどれだけ差を詰められるか。
ライバルとして見てもらえる位置まで辿りつけるか。
今後の練習に対する取り組みで決まる。
個々でも目指すべき選手が見つかったはず。
まずはその選手目標にし、いつの日かその子を超えていこう。
“県大会優勝”はきっとその先にある。
この日の練習の雰囲気を続けられるか。
それこそが今後のチームの成長の鍵。
いろいろあったが、とても有意義な、非常に大きな意味のある合宿になったと断言できる。
合宿の最後のグランド挨拶の際、嬉しい出来事があった。
光が丘中のグランド向かって整列すると
「タ~タタッタタッタタ~」
キャプテンの伴奏に続いて校歌を歌いだした。
手を後ろで組み、リズムに合わせて体を反らせながら大きな声で校歌を歌った。
一糸乱れぬその姿は、まるで中体連の時の3年生のようだった。
目標であった「県大会優勝」に、あと一歩の所で届かなかった3年生。
だが、その想いは後輩へしっかりと受け継がれている。
3年生に対し「期待してくれ」とはとても言えないが、
なんか、とっても嬉しかった。