8月3日。
この日から2日間は「三ヶ日まつり」が開催される。
花火会場となる猪鼻湖の畔に位置する三ヶ日中学はこの2日間、グランドが使えない。
例年は練習試合などを行っていたようだが、今年は「強化合宿」を行うことになっていた。
合宿といっても遠方まで行くわけではなく、近場の強豪チームと一緒に練習をしてもらうという内容のモノ。
初日は“浜北王者”の北浜中と合同練習を行い、浜北市内のホテルに宿泊。
2日目は“天竜王者”の光が丘中と合同練習を行う。
引率役のため、ワタシはこの合宿に帯同することになっていた。
朝7時に三ヶ日中に集合し、1年生の荷物を乗せ北浜中へ。
8時過ぎ、北浜中へと到着。
北浜中のグランドは三ヶ日中に比べると実に“狭い”。
その広さは三ヶ日中の半分以下。
その狭いグランドを野球部、テニス部、ソフトボール部などが使用するらしい。
練習時間も部活ごとに決められているようで、野球部の練習はほとんどが半日とのことだった。
広大な野球部専用グランドを持ち、常に1日練習が可能な三ヶ日中とは大きく環境が異なる。
三ヶ日中野球部は間違いなく恵まれているのだ。
北浜中の練習メニューを三ヶ日中の選手が一緒に体験させてもらうカタチで練習がスタート。
細かい練習内容の記載は控えるが、実に効果的で無駄のない練習メニューが続く。
「これなら短い時間でもウマくなるな~」
合宿に帯同した他の父兄と話をしながら練習に目を凝らす。
キャッチボールひとつとっても種類が多く、短時間でメニューが目まぐるしく変わる。
とにかく無駄がない。
常に考えて動かないと練習についていけない。
戸惑いまくる三ヶ日中の選手たち。
午前中は基礎練習だけで終わった。

両チームに昼食をとる。
お調子者が多い三ヶ日の子たち。
すぐに仲良くなったようだ。
午後からの練習はノックを中心としたメニュー。
ここでも無駄は一切なく、捕球技術を向上させるトレーニングの中に判断力を養う練習が組み込まれており、頭を動かしておかないと練習についていけない。
この頃になると“あるコト”に気付き始めた。
そのあるコトとは“声”だ。
三ヶ日もまずまず声があるチーム。
この日も“いつも通り”声を出しているようなのだが、全く耳に入ってこない。
聞こえてくるのは北浜の選手の声ばかり。
三ヶ日と北浜では声の“質”が全く違っていた。
「お~い、お~い」
とボールを呼ぶだけの三ヶ日に対し、
北浜は
「ゲッツーあるぞ!」
「捕ったらバックホームね!」
「ボールファースト!」
など、次のプレーを指示する声がいたる所から聞こえていた。
外野を観ても
「こい!」
と言うだけの三ヶ日に対し、
北浜は
「OK!」
「任せた!」
など、指示する声が飛び交っていた。
これこそが“活きた声”。
三ヶ日でこの声を出せるのはユウキただ一人。
そのユウキは先日の練習中に右手人差し指を骨折し、この日はサポート。
裏方をやってくれていたためグランドにはいない。
そのため、一層北浜の選手の声が際立った。
普段ここまで気にならなかったのは常にグランドにユウキがいたからだ。
彼がいないこの日、微かに聞こえる三ヶ日の声は全てが“無意味”な声だった。
すでに対外試合をしているチームは多いと聞くが、三ヶ日中は依然基礎練習のみ。
とても試合をするレベルにない。
よって、この日の合同練習が“初めて”の他チームとの交流。
ただ一緒に練習をしているだけなのだが、一目ではっきりと実力差が感じ取れた。
技術面で大きく引き離されているだけではない。
声の“質”の部分でもその差は歴然だった。
一球に対する思いも違った。
フリーバッティングの際、守備につく北浜の選手は、ノックの時同様、「OK!」、「任せた!」など声を出しながらボールを追っていた。
いつ来るかわからない打球に対し、常に集中し、ボールに食らいついていた。
その頃三ヶ日の選手はというと、ボールが来そうもない所に陣取り、“ボール拾い”に勤しんでいた。
北浜の選手に「任せた!」と言われても、ボケ~としているために反応できない。
これこそ絵に描いたような“練習のための練習”…。
特にこの傾向は2年生に強く表れていた。
「オレたちは最上級生!球拾いは1年がやっとけ!」
口に出ていたわけではないが、プレーにははっきりと“それ”が出ていた。
無性に腹が立った。
最上級生だからといって試合に出られる保証はどこにもない。
すでにいくつかのポジションでは1年生が2年生を上回っている。
ただそれに気付いていない2年生が数多くいる。
2年生にはガムシャラにプレーして欲しかった。
1年生に2年生の凄さを見せつけてほしかった。
北浜中に対してもそうだ。
この日の時点では圧倒的に北浜が上。
それでも「やっぱ今年も三ヶ日ヤバイぞ…」と思わせる程の練習への取り組みをみせてほしかった。
負けじとボールに食らいつく姿を見せてほしかった。
この日の三ヶ日中は“ただの”お客さんだった。
ライバルでもなんでもない。
北浜中野球部へ“仮入部”しただけ。
そこにあったのは恥ずかしいという思い。
「何かを吸収しよう」という思いが一切なかった選手たちに対する歯がゆさだけが残っていた。
彼らにとってこの合宿は“旅行”と同じなのだろう。
この時点ではこの合宿の意義を見出すことはできなかった…。