6月22日。
この日は中体連前“最後”の練習試合。
前日の夜から雨が降り続いていたが、朝方から小雨になり、昼前には雨は上がった。
三ヶ日中には、野球部専用のグランドがある。
黒土のグランドは水はけがよく、他校ではグランドが使用できない状態でも、三ヶ日中ではできることが多い。
この日も多分にもれず、昼から練習試合を行うことができた。
1試合目の先発は“エース”のユウキ。

前日の練習試合では、夏にボロ負けした相手に対し“ノーヒットノーラン”を達成!
この日の調子はイマイチだったが、相手打線を1点に抑え、三ヶ日中が勝利。
続く2試合目は“来年のエース”のカイトが先発。
3イニングを0点に抑えた。
4回からはコウタがマウンドへ。
訳あって野球ができず、練習に参加できるようになったのは先週から。
能力が乏しい選手が試合に出るには、コツコツと日々積み上げていくほかない。
コツコツと積み上げてきたコウタは、少しずつ、ゆっくりと成長していた。
自分のピッチングのカタチの薄っすら見えてきていた。
積み上げるのは時間がかかるが、それをなくすのは一瞬。
全ては自分の責任。
中学生としての約束事を守っての野球である。
そんな訳で、ピッチング練習がしばらくできなかったこともあり制球がなかなか定まらなかったが、
懸命に自分が出きることを探し、相手バッターと対峙していた。
たぶんこの日のマウンドが、コウタにとって中学生活“最後”のマウンド。
球速を上げるために「体を大きくしたい」と懸命に食べた。
身長は170cmまで伸びたが、体重は50kgに届くことはなく、結局、球速は上がらなかった。
球速は上がらなかったが、その分、打者との駆け引きや変化球の取得に力を注いだ。
背番号は“1”から“10”に変わり、上投げだったフォームは、サイドスロー気味に変わった。
だがコウタは“最後”までピッチャーだった。
小学校2年生の冬、コウタは“あの日の約束”を7年間にわたって守り通した。
中体連の開幕は今週土曜日。
負けた時点で中学野球は終わる。
練習ができるのは“わずか”4日。
あとは細部に徹底的にこだわるしかない。
試合に入るまでのルーティーンの構築。
グランド状況、風向きの把握。
チームとしての結束。
試合で流れを引き込む声。
そして何よりも“気付き”。
ちょっとしたプレーの変化や、試合展開、さらには相手チームの癖など、細部にわたって集中し、“気付く”ことが勝敗を左右する。
相手よりも先に気付くことで試合展開は大きく変わるはずだし、気付くことで、プレースピードは格段に変わるはず。
大会が終わるまで、例えば、ゴミが落ちているのに気付く、黒板が汚いのに気付く、カバンが揃っていないのに気付くなど、日常生活の中から“気付き”を意識することで、ほんのちょっとかもしれないがチーム力は上がる。
その“ほんのちょっとの差”が高みへと導いてくれるはずだ。
対戦相手は高台中。
小学校の時、県大会で対戦した浜松ガッツの子たちが多く所属する中学だ。
これも何かの縁。
とにかく思いあがることなく、地に足を付けて、自分たちのペースで試合をしてほしい。
中学生らしい丁寧なあいさつと、はつらつとした全力プレーを。
そうすればきっと会場全体が応援してくれる。
とにかく“中学生らしく”!
いよいよ最後の夏がはじまる。