“本当”のスタート!

翌11月4日。

秋季大会まであと一週間となったこの日、大会前“最後”の練習試合が行われた。

“本当”のスタート!
前日登板がなかったコウタだが、この日は2試合目に先発。
2回にエラーが重なってノーヒットで1点を奪われたものの、それ以外は危なげないピッチングで、6回を投げ1失点。
チームも勝利し、“結果”を出した。

しかしながら、もはや、チームはコウタを“エース”として構成されてはいない。
“スーパースター候補”であるユウキを投手の軸に、チームは再編成を図っている。
これは必然といえば必然。
チーム内にずば抜けた存在がいるのであれば、その選手を中心にチームを作るのは常識だ。

例年に比べて“小粒”な今年、監督が当初目指したのは“全員野球”。
まずは守備を徹底的に鍛え、守り勝つ野球を目指した。
だがピッチャーは制球が定まらず、肝心なところでエラーが出てしまい、思うような結果を得ることができなかった。
いい時はいいのだが、ピッチャーの乱調とエラーの連発で負けることがあまりにも多く、軌道修正が必要となった。

三ヶ日中学は、全ての大会おいて県大会出場回数“ダントツ”ナンバーワンの伝統校。
そんな中学が簡単に谷間をつくるわけにはいかない。
勝つために“スター依存型”のチーム作りにシフトすることになった。
球威が最もあり、運動能力が圧倒的に高いユウキを投手の軸に置き、これまで3番を打っていたサトシを4番にし、攻撃の核とした。

この秋季大会は上位4チームに県大会への出場権が与えられる。
県大会は2月に行われるため、出場するかしないかでは、冬のモチベーションが大きく変わってくる。
しかもこの大会は中体連のシードポイント対象の大会。
同じくポイント対象の大会である新人戦で初戦敗退したために、この大会では少しでも上位に食い込みポイントを稼ぐ必要もあるのだ。


その後の抽選の結果、三ヶ日中の初戦の相手は、市内屈指の好投手を擁する三方原中に決まった。
ブロックには強豪校がズラリとならぶ、実に厳しいブロックに入った。

そしてその大会向けての背番号が配られた。

背番号「1」はユウキ。
コウタは「10」だった。


コウタのこれまでの中学野球はラッキーの連続だった。
悩んだ挙句の入部だったが、先輩、仲間に恵まれ、すぐにチームに溶け込むことができた。
ピッチャーを希望すると、左利きということもあり、すぐにピッチャーをやらせてもらえた。
24人も先輩がいる中で、背番号をもらいベンチに入ることもできた。
一年生としては、レギュラーとして出場していたユウキ以外では“唯一”公式戦に出場させてもらうこともできた。
一年生大会では背番号1を背負い、チームの準優勝に貢献することができた。
新チームになっての初の公式戦でも背番号1を与えられ、完投させてもらえた。

だがそれには常に“違和感”がついて回った。
「ホントにコウタでいいのかな…」
という違和感が…。

何度も言うが、コウタは決して野球が上手くない。
もちろん、ピッチャーとしても大したことがない。
小学校の時からそんなに技術が向上したわけでもないのに、中学にあがった途端、主力として扱われている。
うれしいと思う反面、違和感があった…。

小学校の時も確かにツイていた。
四年生の時、上級生がティーボール大会で全国大会に出場したのだが、人数が足りなかったため、コウタはレフトで出場さしてもらえた。
六年生の時にはチームが10年ぶりに県大会に出場したのだが、その試合でマウンドにいたのはコウタだった。

だがそれらは全て与えられたものではなく、コウタが自身で引き寄せたモノ、いわば“必然”だった。

四年生の時、コーチから「声を出せないヤツは試合で使わない」と言われてからというもの、試合だけではなく練習から声を出し続けた。
結果として上級生の試合でレフトとして使ってもらえるようになった。
五年生の時、希望のポジションを聞かれると躊躇なく「ファースト!そして来年はピッチャー!」と答えた。
当時ファーストを守っていたのはサトシ。
試合には出られなくなったが、サトシに次ぐ2番手としてファーストの練習をさせてもらえるようになった。
夏になるとコーチがピッチングを教えてくれるようになった。
それに伴い、家に帰ってきてからも走るようになった。
六年生の時にはファーストのレギュラーになり、サトシに次ぐ2番手ピッチャーになることができた。

本当に努力したからこそ実現し、心の底から望んだからこそ手にすることができた。
諦めずに“挑み続ける姿勢”こそがコウタの最大の魅力だったのだ。


中学に入ってからはどうだっただろう。

確かに練習は一生懸命にやっている。
たぶん、一切手抜きをしていない。
だがそれは普通の話。

自分が欲しかったモノは、本当に努力しなくても、心の底から望まなくても手に入ってしまったような感じがしていた。
でも良かった。
コウタが目指すべき山は相当高い。



昨日、背番号の件で相当ヘコんでると思い、早めに帰宅し、久しぶりに夕食をコウタとともにした。

帰宅中の車中でどうやって励まそうか考えていたが、なかなかいい言葉が見つからなかった。
言葉を探そうとするのだが、怖さが先に立ち、なかなか言葉を考えるという思考まで辿り着かなかった。
コウタ自身が諦めてしまっているじゃないかと思い、怖かったのだ。
コウタが今後比較されるのはユウキ。
普通の選手ならまだしも、チームNo.1の選手と比較されることになる。
自分であればとっととピッチャーを諦め、他のポジションに生きる道を探す。
果たしてコウタはどう想っているのだろうか。
そんなことを思いながら家路についた。

ウチのルールとして、食べる本人が、食べる分だけご飯をよそうことになっている。
先に食卓につき、ビールを口にしながら言葉を探すがなかなか出てこない。
そうこうしていると、コウタがご飯をよそい食卓についた。

「オイ!なんだそりゃ!?」
コウタのご飯をみてぶっ飛んだ。

今までもどんぶりで食べてはいたのだが、器がどんぶりなだけで盛り方はいたって普通盛りだった。
それが今目の前にあるコウタのどんぶりは、まるで漫画出てくるご飯のように、こんもりと山盛りになっているではないか。

「オレはこの位食べなきゃ話になんないからさ」

身長は伸び始め、まもなく165cmになろうとしているが、体重は依然45kgにも満たない…。
体が出来ていないために球威がなく、リリースがばらつくために制球が定まらない。
コウタがピッチャーをやる上で、一番の課題となっていたのは“体”だった。
言われたのか気付いたのかは定かではない。
だが現実として“超”山盛りのどんぶり飯が目の前にある。
“食べる”という、コウタにとって過酷なトレーニングを自らに課した。

コウタは全く諦めていなかったのだ。

中学生という難しい時代に入り少しばかり気にしていたが、
コウタはやはりコウタだった。


「そうか」
コウタの言葉に一言だけ返答をし、考えていた言葉と共にグラスのビールを一気に流し込んだ。







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この記事へのコメント
突然にすみません。

読んでて涙が出てきました。
家の子も同じ「10」の背番号でした。
(某硬式チームですが・・・)

てっきり「5」をもらえると思っていたばかりに、親子ともショックは大きかったです。

でも・・・この悔しさをバネにすることを、子供自身が身に染みて感じたようでした。

家の子も努力は誰よりもしてると思います。
でも、やっぱりまだ中学生。

体格の差もあるし、少年野球時代に培ってきたものにも差があります。

これからも、応援させてもらいます。
お互いに頑張りましょう!!
Posted by だい・ちぃママ at 2013年11月14日 18:51
はじめまして。
小学生編から楽しく拝見させて頂いてます。
私の息子もコウタ君と同じ中学2年生で、野球小僧です。

中学2年生、「父と子」。
難しい年頃ですね。

コウタ君と三ケ日中野球部の活躍を期待してます。
Posted by スラッガー at 2013年11月14日 23:05
だい・ちぃママさん

コメントありがとうございます。

背番号「10」…。
ツライですね…。

親からすれば、自分の子には試合に出てほしいですもんね。

でも背番号「10」だったことにはきっと意味があるはず。
その意味を前向きに捉え、新たな目標を設定できるといいですね。

「常に前へ!」

後ろを振り返ることなく、常に前を向いて困難を乗り越えていく人間に育ってほしい、と願うばかりです。

親はもはや見守ることしかできませんが、子供にはポジティブ思考で取り組んでもらいたいですね。

あと、体ができてからが本当の勝負かもしれませんね。

またコメントください。

ありがとうございました。
Posted by ワカさんワカさん at 2013年11月15日 17:23
スラッガーさん

コメントありがとうございます。

小学校の時から見ていただいていたようで、ありがとうございます。
あの頃を思えば、「ホントよくやってる」と思います。

中学生になれば自我が芽生え始め、小学校の時のような関係は難しくなりますよね。

できるだけ“ひとりの大人”としてみているつもりですが、なかなか思うようにいかないのが現実、というところでしょうか。
※とはいえ、上手くいってる方だとは思いますが…。

中学野球ができるのも、あと200日ちょっと…。

悔いの残らないように、やりきってもらいたいですね。

またコメントください。

ありがとうございました。
Posted by ワカさんワカさん at 2013年11月15日 17:32
冬が来る前に、投げられるかです。
この次は、息子にと言ってますが一緒に最近練習始めた監督の子は練習試合にもう投げました。
今年はこのままかも、来年は六年で小学最後です。
でも、悔しくても諦めてません。爪を磨き、あがっていくことを信じてます。
皆んな今までの事がいつか自分の肥やしになると信じましょう。
Posted by やま at 2013年11月16日 17:43
やまさん

コメントありがとうございます。

「常に前へ!」

さまざまな状況の中でも自分を見失わず、
目標に向かって突き進んでもらいたいですね!

またコメントください。

ありがとうございました。
Posted by ワカさんワカさん at 2013年11月18日 16:56
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