11月13日。
この日は、今年度“最後”の遠征となる「選抜三島大会」。
30年以上の歴史がある大きな選抜大会だが、この大会へ浜名湖支部から参加するのは三ヶ日フレンズが初めて。
首脳陣には「支部の代表として恥ずかしい試合はしたくない」という想いもあるだろうが、親からしてみれば、「今年の総決算となるような“フレンズらしい”試合を」という想いしかない。
朝4時30分頃、三島大会の開会式が行われる「長伏グランド」に向かって出発。
この「長伏グランド」はフレンズが出場した県大会でも開会式が行われたグランドのため、場所は熟知している。
コウタにとっては今年“4回目”の三島。県大会の抽選会で1回、県大会で1回、三島大会で2回(2回といっても、1回目は雨で延期となったため、途中で引き返したのだが…)。実に縁深い場所となった。
三島大会にはさまざま“催し”が用意されていた。
ブラスバンドによる“生演奏”の他、“打ち上げ花火”、“鳩”、さらには“入場行進コンテスト”など、開会式とはいえ見どころが多い。
まずは“入場行進コンテスト”。ブラスバンドの生演奏にあわせて選手が入場してくる。

中盤過ぎ、三ヶ日フレンズが登場!この日のために、入場行進の練習もしてきた。
※ちなみにプラカードを持つのは“お母さん”!フレンズはユウのお母さんが担当しました。

立派な入場行進!

んんっ!?サトシがニヤけてるぞ!
入場行進を見届けると、ちょっとひと休み。
球場の外の喫煙所へ。※タバコは20歳(はたち)を過ぎてから。
偶然、チームの会長さん、副会長さんも居たため、しばし歓談。
すると球場のアナウンスから
「……は三ヶ日フレンズ野球スポーツ少年団!」
という声が!
あわてて球場へと戻ると

コウタが記念品を受け取っている!
どうやら“入場行進コンテスト”で三ヶ日フレンズが優勝したらしい。
どう考えても「一番遠くから来てくれたから」ということに違いないが、それでも表彰されるということはうれしい。
開会式が終わると試合会場へと移動。
フレンズが初戦で対戦するのは、裾野スラッガーズ。
今年、全ての県大会に出場している“強豪”だ。
到底勝てる相手ではないのだが、目標は“フレンズらしい”野球をすること。フレンズらしい野球とはもちろん“絶対に諦めない”野球だ。
トスで勝ったコウタはこの日“も”後攻を選択。
12時30分頃。
裾野スラッガーズの攻撃で試合は始まった。

まっさらなマウンドに上がるのは“もちろん”サトシ!体調不良でここ2週間は野球ができずつらい思いをしていただけに、待望のマウンドとも言える。

先週“3つ”のポジションを守った“キャッチャー”のコウヘイだが、この日は“なんと”ライトで出場。
サトシのボールに圧されてライト方向にボールが飛ぶことが多いためだ。
そのサトシだが、珍しく制球が定まらない…。
先頭打者にデッドボールを与えると、ボークを取られ、バントでランナーを3塁に進められるとスクイズを決められ“あっと”いう間に先制点を奪われた。
その後もフォアボール3つで満塁とされると、1・2塁間のゴロをファーストのコウタが“欲張った”結果、エラーとなり2点を追加される。
裾野スラッガーズは、実に“そつのない”全員野球をするチームという印象。当然、守備も鍛えられているだろうからエラーは期待できない。となれば、不要な失点はできるだけ避けたいのだが…。

いきなりの展開に監督がたまらずマウンドへ。キレイに見えるはずの富士山にも雲がかかっている…。
さらにエラーが出て、この回“まさか”の4失点…。
制球が定まらないサトシは、この回だけで5四死球、ボーク1つ、ワイルドピッチ2つ…。
こんなサトシを観たことがない、ほど調子が悪い…。
1回の裏のフレンズの攻撃は、“あっと”いう間にツーアウト。
3番のキョウタロウが出塁すると、

サトシがセンター前にクリーンヒット!
その後、満塁まで攻め立てるが“あと1本”が出ず無得点…。
2回表は“なんとか”無失点で切り抜けたが、サトシの調子が上がる気配がない…。
サトシの“心”が切れないか心配…。
2回の裏のフレンズの攻撃は、

ワンアウトから、コウタがセンター前ヒットで出塁!
最近、やっとヒットが打てるようになってきた!

盗塁!※たぶんヒットエンドランだったと思うが…。一応、セーフです。

9番のヒロキも“ヒット”で続き、下位打線でチャンスを演出する!
ユウはセンターフライに倒れるが、

コウスケがライト前へ運ぶ2点タイムリーヒット!
2回が終わって2対4。2点差に詰め寄る。
3回表、先頭打者に“実質”初ヒットとなるツーベースを打たれ、いきなりのピンチ…。
パスボール、フォアボールでピンチが広がると、センター前にヒットを打たれる…。

ユウの決死のバックホームも実らず、2塁ランナーもホームイン…。2点を追加される…。

富士山には“さらに”雲がかかる…。
マウンドを蹴り上げるサトシ…。
明らかにイライラしている…。
さらにフォアボールを与えピンチを広げる…。
上手くスクイズを外したのだが、“微妙な”判定でランナーがホームイン…。

今度は子供たちが「タイム」を取りマウンドへ。
結局、この回も4点を奪われ2対8…。
コールド負けがちらつく…。
3回裏フレンズの攻撃。

エイスケのツーベースヒットを足がかりに1点を返す。エイスケは実に“久しぶり”のエイスケらしいライナーのツーベース。8月に小指を骨折してからスランプに陥っていたが、“戻ってきた”感じがする。
3回が終わって3対8。
ワンアウトからヒットを打たれた…。
サトシの心は爆発寸前のように見えた…。
(きょうはもう何も起こらないな…)
そう思った時、
マウンドのサトシが“空”を見上げた!
“はっ”と思った。
以前、「ピッチャーはどうしても調子が上がらない時がある。その時にどう修正するかがいいピッチャーとそうじゃないピッチャーの分かれ目」という話を聞いたことがある。
サトシは自暴自棄になったわけでも、諦めたわけでもなかった。
なんとか修正しようともがいていたのだ!
きっと、これはサトシにとって、本当のエースになるための“試練”。
これに打ち勝てれば“真”のエースになれるはずだ。
それは、その後のイニングを抑えることではない。
「なんとか修正したい」という気持ちで、いろいろ試行錯誤しながら投げることで、“今後”修正力が身につくはず。
試合でしか得られない“能力”があるのだ。

コウタも必死にサトシを盛り立てる。
この回は2点を奪われ、3対10…。
試合は決まった…。
4回裏に得点を返すも1点どまりで、4対10…。
さらに主審から、
「次の回でタイムオーバーになりますので、次が最終回です」
……。
最終回となる5回にもエラーが出て1点を奪われる…。

それでも修正を重ねたサトシは、最後のバッターから三振を奪う。それも苦手としていた“遅球”で!
手元のスコアブックを見ると、4回、そしてこの5回と、サトシは四死球与えていなかった!
得点を奪われていたため気付かなかったが、しっかりと“修正”できていたのだ!
得点は4対11…。裾野スラッガーズが大量7点リード…。
最終回のフレンズの攻撃は“5番”のコウヘイから…。
コウヘイの後は下位打線に回る…。
(もう無理…)
さすがにそう思うながら、カメラをコウヘイに“一応”向ける…。
(あれっ!?)

レンズ越しに見たコウヘイの目は“全く”死んでなかった!さらにコウヘイにしては“珍しく”大きな声を出してバッターボックスに入った!
急に自分が恥ずかしくなった。
あれだけ散々、子供たちに「絶対諦めるな!」と言っておきながら、この日は“何も起こらない”と思っていた。
理由は、裾野スラッガーズの繰り出す“手堅い”野球。そつない攻撃に加え、高い守備力を備えた好チームだったため、ミスを期待することができない。ミスがなければ、なかなか大量点を奪うことはできない。
できないというか、できるはずがない、と思っていたのだ。
コウヘイは出塁すると、相手ピッチャーがボークを取られ2塁へ。
ワンアウトとなったところで代打を送る。

サードがベースに張り付くのを見て、タツヤはセーフティーバント!
さらに盗塁を決め、ワンアウト2、3塁!
“鳥肌”が立った!
3人で終わるかと思った下位打線。
その下位打線が“諦める”素振りを全く見せずチャンスを作り出した。
バッターは“8番”のコウタ!
コウタこそ、“諦めない”フレンズの象徴!
どんな目をしているのかは想像がついたが、レンズを覗く。

当然のように、全く諦める素振りなし!

コウタの打球は三遊間へ!ショートの好捕にあうもセーフ!
その間にランナー2人が生還!
6対11!
その差5点!
“9番”ヒロキは粘りに粘ってフォアボールで出塁!
ユウに回した!

いつの間にか富士山がはっきり顔を出していた。フレンズの“諦めない”野球を見ようとしたのかもしれない。

ユウの打球は快音を残しセンターへ!
しかしセンターが追いつきツーアウト。
それでもフレンズに“諦める”という言葉は存在しない。
コウスケがレフトへヒットを放ち満塁とすると、
打席にはキョウタロウが入る。

いつものように大きく息を吐き打席に入る。
思い切り振りぬくと、打球はセンターの頭上を遥かに越え、ワンバウンドでネットを越えるエンタイトルツーベース!
その差“3点”!
ツーアウトながらランナーは2塁と3塁にいる。

ここでバッターボックスに入るのは“サトシ”!
みんなよくやった!
下位打線から始まったイニングだが、サトシまで回すことができた!
しかも“一発”が出れば同点!
ホントに諦めずによくやった!
みんなそれぞれが試合を“諦めず”にプレーした結果、サトシまで回すことができたのだ!
みんな、ありがとう!
これが、これこそが“フレンズ”です!
エースが乱調だった。
エラーもたくさんあった。
それでも決して諦めることなくプレーすることができた!
この大会が“最後”の選抜大会。
その最後の大会でも“フレンズらしさ”を見ることができた!
ホントに、ホントにありがとう!
“これ”が見たかった!
サトシは内野ゴロに倒れ、ゲームセット。

野球という観点からすれば駄目な試合だったかもしれない。
しかし“エンターテイメント性”を考えれば“極上”だった!
どこのチームよりも早起きして挑んだ「選抜三島大会」。
子供たちから“一番欲しかった”モノがもらえた素敵な大会だった。