11月5日。
いよいよ最後の支部チャンピオンを決める「秋季大会」が開幕。
三ヶ日フレンズの初戦の相手は「三ヶ日ジャガーズ」。
公式戦で対戦するのは、JA杯支部予選の準々決勝以来2度目。
その時は辛くも“サヨナラ”で勝利することができた。
果たして今回は…。
試合はジャガーズが先攻でプレイボール。

いつも通りチームを鼓舞するコウタだが、この日は“少し”違っていた。
目の輝きが違う。その目は最近ほとんど見ることができなかった目。
本来のコウタ、本来のフレンズが持つ目だ。
今まで曇っていた心に光が差し込んだような気持ちになった。
(期待できる!)
そう確信した。

キャッチャーには、長い“肘痛”が直った“レギュラーキャッチャー”のキョウスケが入り、コウヘイはショートに入った。
チームの守備を支え続けた“4年生”のコウスケは(初めて?)のベンチスタートとなった。

先発のマウンドはもちろんサトシ。
試合前のブルペンを見ていると状態は良さそうだったので、この日も“怪投”が見られるのでは、と思っていた。
しかし、試合が始まると明らかに“おかしい”…。
先頭打者をいきなり四球で歩かせた。

球速、球威、さらには制球に至るまで、全くの別人…。一体どうしたのか…。
その後もヒット、四球でツーアウトながら満塁のピンチ…。
なんとか無失点で切り抜けたものの、サトシがおかしい…。
サトシは“高熱”に襲われていた。
ベンチに戻るとそのまま荷物をまとめて帰宅…。
いきなり大黒柱である“サトシ抜き”での戦いが強いられることになった…。
なんとしても先制点、いやいや大量得点が欲しい展開になってしまった。
となればユウはなんとしても出塁したい。

粘った挙句、ヒットで出塁!
この出塁を足がかりに、タイムリーヒット、押し出しで2点を先制することに成功。
2回表、ジャガーズの攻撃。

マウンドにあがったのはコウヘイ。いつ振りだろうか。とにかく久しぶりのマウンド。
球威はあるのだが、問題は制球…。
スピードボールをグイグイ投げ込む。
球威に押されて、1塁側のベンチ方向にボールが上がった。
明らかに追いつかないが、ファーストのコウタがダイブ!
(そう!こういうプレーを見たかったのだ!)
2回表を三者凡退で切り抜けると、その裏の攻撃はコウタから。

レフト前に落ちるヒットで出塁。
バントで2塁に進むと、ユウも続く。

ライト前ヒット!
その後は打者一巡の猛攻で大量7点を挙げることに成功。
2回が終わって9対0でフレンズリード。
3回表、コウヘイの制球が乱れ始める。
先頭打者に四球を与えたのを足がかりに2点を奪われる。

この試合、コウヘイに課された役割は大きい。立て続けに2回戦目が行われるため、コウタとキョウタロウはこの試合には使いたくない。そのため、コウヘイには最後まで投げ切ってもらう必要がある。
ランナーを背負う苦しいピッチングが続くが、バックがコウヘイを盛り立て、なんとか“0”を積み重ねる。
ひとつひとつのプレーから“意思”が伝わってくる。
絶対に“諦めない”という意思が。
最近の試合で見られた、“相手を見下す”、“はなから諦める”姿勢はこの試合全く見られない。
一球一球、一打席一打席、ワンプレーワンプレーを精一杯プレーしている。
これぞフレンズ!
大事なのは結果ではない。
“姿勢”だ!
終盤に1点を返されたものの、9対3でフレンズの勝利!
久しぶりに“フレンズらしい”野球ができた!
おまけに結果もついてきた。
「もう見ることはできないのでは…」と思ったフレンズの野球を見ることができた。
なんとも言えない満足感に包まれたのは、言うまでもない。
続いて2回戦が行われた。
対戦相手は「三ヶ日パワーズ」。
先の引佐大会では、“投壊守壊”で格下と思われるチームに敗退していた。
フレンズ的には“大勝”をイメージしていたが、試合が始まるとそのイメージは一変する。
試合はフレンズが先攻で始まった。
相手のエースが“ポンポン”とストライクを先攻させる。
そこには“投壊”した引佐大会の雰囲気は全くない。
1回の表のフレンズの攻撃は内野ゴロ3つで三者凡退…。
ゴロ捌きを見れば“守壊”した雰囲気もない。
実に伸び伸びとプレーしている。

フレンズの先発はキョウタロウ。先の引佐大会では好投を見せたが果たして今日は…。

ショートにはレギュラー戦“初出場”となる4年生のタツナオが入り、コウヘイはサードへ。
パワーズの先頭打者は“いきなり”セーフティーバント!
間一髪アウトだったが、際どいタイミング…。
明らかに今日のパワーズは違う…。
2回の表、フレンズが先制する。
ツーアウトながらランナー3塁の場面で、バッターボックスにはコウタ。

センター前にクリーンヒットを放つ!
しかしその裏、“突如”キョウタロウが制球を乱す…。

4四球にヒット、エラーが絡み3点を奪われ逆転を許す…。
2回が終わって1対3でパワーズがリード。
決して気が緩んだわけではない。
パワーズがいいプレーをしているのだ。
彼らもまた、一生懸命野球に取り組んできていたのだ。
3回の表、ユウが四球を選んで出塁するも、盗塁を刺されチャンスが広がらず…。
パワーズは怪我をしていた“レギュラーキャッチャー”がこの試合から復帰していた。
4回の表、スクイズで1点を返すが、あと1点が遠い…。
5回の表、タツヤがセーフティーバントを成功させると、すかさず盗塁。

初出場の4年生、タツナオが“貴重な”送りバントを決め、ワンアウト3塁。
同点のチャンス!

ユウがヒットを放ち、遂に同点に追いつく!

さらにユウが盗塁を決めチャンスを広げる。
その後、ワンアウト2、3塁とパワーズを攻め立てる。
バッターボックスには“3番”のコウヘイ。逆転への期待が高まる!

コウヘイの打球は“ボテボテ”の内野ゴロ。ユウは躊躇なくホームへ突っ込むが、相手の好プレーに遭い、ダブルプレー…。
続く6回表。

バッターボックスにはサトシに代わり“4番”を務めるキョウタロウ。
「空に向かって打て!」
キョウタロウが放った打球は、深く守るレフトの頭上を遥かに越える“特大”のホームラン!
遂に逆転に成功!!
6回の裏、パワーズの攻撃。

マウンドにコウタが上がる!
引佐大会では全く制球が定まらず、毎回“失点”を喫したコウタ。この日も同じようなピッチングをすれば、たぶんもう登板の機会は“ない”。
しかも得点差はわずかに“1”。すでにピッチャーを3人使用した関係から、もはやピッチャーはコウタしか残されていない。
逃げ場はどこにもないのだ。
「コウタ!」
大声でコウタを呼んだ。
こっちを向いたコウタに対し、拳を作り胸を叩き
「気持ちで!」
コウタは大きく頷いた。
コウタの野球は“気持ち”の野球。
その“気持ち”の野球こそが“フレンズの野球”だ!
ちなみにファーストにはこの日“4つ目”のポジションを守ることになるコウヘイが入った。
エラーで先頭打者が出塁すると、その後もエラーが出て、ワンアウトランナー2、3塁…。
いきなりの大ピンチ…。

それでも集中を保ち、キャッチャーミット目掛けて投げ込む。
エラーは出たものの、みんな集中している。

コウタもしっかり周りが見れているようだ。

エイスケも大声でピッチャーを励ます。
このピンチを無失点で切り抜けた。
最終回も危なげないピッチングで三者凡退。
4対3で準決勝進出を決めた。

この日の試合で、フレンズは“なくしていた”モノを間違いなく取り戻した。
それは“結果”ではない。
取り戻したモノは“気持ち”。
“諦めない”気持ちだ!
その気持ちは、勝ち負けよりも最も観たかったモノ。
奇跡の一年を締めくくるための、最後まで“フレンズらしく”戦うための準備は整った。