11月3日。
祝日であるこの日、遅めに起床すると、我が家は“もぬけの殻”。
誰もいなかった。
嫁さんは娘のバレーで岡部町へ。
コウタはいるはずだが、姿が見えない。
コウタの部屋や、母屋を覗くが、やはり姿がない。
リビングに戻り、撮りためたDVDを観ようとテレビをつけた頃、
「コウタは午前中、友達と遊ぶ約束してる」
という、嫁さんの言葉を思い出した。
実はコウタのことが“少し”気になっていた。
前日、「オールスター」のメンバー発表があり、“落選”していたためだ。
オールスターとはチームごとに選手を数名選び、各支部でチームを結成。その支部のチームが対戦する大会。
三ヶ日フレンズが属する浜名湖支部は担当支部であるため2チームを結成する。
浜名湖支部の場合、通常は各チーム1名のみ選ばれるのだが、今回は2名。
さらにフレンズは県大会に出場したため、枠がひとつ増え“3名”が選出されることになっていた。
先週末に発表されたのは、サトシとユウの2名のみ。
もう1名の発表は水曜日まで持ち越されていた。
最後の1名に選ばれたのはコウヘイだった。
サトシはチームの大黒柱中の大黒柱(あえて説明の必要なし)。
ユウは5年生からのレギュラーで、出塁率“5割”を目指す“フレンズ史上屈指”の1番バッター。
コウヘイは9つすべてのポジションを守った“ユーティリティー”プレーヤー。フィジカル能力も高く、なんといっても体つきがいい。ユニフォームがとても似合う。
全く順当な選出。
コウタの場合、守れる所が少ない。
一時、外野をやっていたこともあるが、足が遅いため守備範囲が極めて狭い。
内野といっても左利きであるため、守れる所はファーストしかない。
ピッチャーをやっているといっても、それは「投げる人がいない」チーム事情なだけで、実際は全く大したことがない。
となれば、全ポジションを守れるコウヘイの方が選ばれやすい。
そもそもコウタとコウヘイでは“打力”が違いすぎる。
「中学に行っても野球をやる」と公言したコウヘイに対し、コウタは濁したまま。
よってコウヘイが選ばれた、というところだろうか。
もちろんエイスケという選択肢もあり、監督は頭を悩ませたと思うが…。
しかし今思えば、そう思っていたのはきっと“親だけ”。
コウタもエイスケもきっと「選ばれたい」と思っていたはず。
しかもコウタの場合、“キャプテン”をいう肩書きが、より一層そう思わせていたと思う。
その思いが強ければ強いほど“落胆”は大きい。
だからコウタのことが気になっていたのだ。
テレビに映し出されるDVDを眺めながら「何か声を掛けたほうがいいのだろうか…」と考えていた。
一番恐れていたのは“諦める”こと。
「頑張っても駄目なんだ」と、頑張ることを諦めることが一番怖い。
そもそもみんな頑張っている。頑張っても駄目なのではなく、“さらに”頑張らなくてはならないということに他ならない。足りない部分があれば、さらに努力を積み重ねること以外に解決策はない。
公式戦もまだ2大会(町内大会を合わせれば3大会)ある。
“奇跡”のような1年の最後を、“諦め”の気持ちを持ったまま望むことは許されない。それこそ“キャプテン”として。
突然電話が鳴った。
母屋から昼食の準備ができた、という内容だった。
母屋に行くと、すでにコウタがご飯を食べていた。
何も知らない祖父母は、平然とコウタに野球の話をする。
コウタの対応が気になっていたのだが、普通に応対していた。
「引佐大会」の結果が新聞に出ていたと聞くと、「マジ!?」と言い、食い入るように新聞を見ていた。
「やった!スモールジャイアンツ優勝してる!」
浜北スモールジャイアンツを応援していたようだ。
母屋から自宅へと戻ると、コウタは何も言わずに2階へと上がった。
気がかり度が増した。
コウタは家族の前では泣かない。
どんなことがあろうと、その場では泣かない。
泣くなら必ず“隠れて”泣く。
涙を見せたくないだけなのか、はたまたプライドが高いだけなのか分からないが、必ず“隠れて”泣く。
30分程たっただろうか…。
気になった私は寝室を見に行った。
しかしそこにコウタはいない…。
コウタの部屋をそ~と覗いた。
するとコウタは机に向かっていた。
「なに!?どうした!?」
コウタが私に声を掛けた。
「いや、何してるかなって思ってさ」
「宿題やってる」
「あそう。がんばってね」
野球も大事だが、勉強も大事。どちらも今やるべきこと。
そっとドアを閉め、リビングへと戻った。
再びDVDを観ていたのだが、やはり気になる。
階段から足音が聞こえた。
気が付くと部屋は真っ暗。
陽が落ちていた。
リビングの扉が開くかと思っていたが、開いたのは玄関。
慌てて外へ飛び出し、コウタへ声を掛ける。
「どこ行くの!?」
「えっ!?どこって、ランニングだけど…」
真っ暗な中、懐中電灯を持って走りに出かけた。
ランニングといっても大した距離を走る訳ではない。ちゃんと走ってる子からすれば笑っちゃうような距離。
だが、それを毎日続けている。
ちょっとビックリした。
心が折れている、と“勝手に”思っていたからだ。
勝手にというか、“間違いなく”折れていた。
その証拠に、オールスターの話を一切しない。
折れた心を抱えたまま走りに行ったのだ。
果たして同じことが自分にできただろうか…。
熟考することもなく、絶対にできない。
学生時代に取り組んでいたスポーツがあるのだが、1回だけレギュラーから外されたことがある。
その時、自分自身が取った行動は“ふて寝”。立ち直るまでは相当な時間が掛かった。
道端に出てコウタの帰りを待った。
遠くに懐中電灯の小さな光が見えた。
その光が見る見る大きくなる。
懸命に走っていた。
まるで、私に「オレなら大丈夫!」と言わんばかりに。
コウタを励まそうと思っていたのに、励まされたのは明らかにコッチ。
こみ上げるモノがあった。
帰ってくると、息があがったままバットを振る。
右脇が開く欠点を確認しながらバットを振っていた。
私は別のバットを持ち出し、同じように振った。
「実際やってみると難しいな…」
これが私が発せられる“精一杯”の言葉だった。
サトシはチームの“骨格”。
サトシの存在がチームの基盤であり、“サトシありき”でチームは始まった。
ユウはチームの“頭脳”。
ユウが出塁することで、今チームとして何をすべきか、みんなが気付いた。
コウヘイはチームの“心臓”。
全てのポジションを守れるコウヘイがいたからこそ、チームは循環した。
エイスケはチームの“筋肉”。
エイスケが打つことで、チームは“圧倒的”に攻撃力を増した。
ではコウタは?
コウタは、コウタこそが、チームの“魂”。
この日のコウタを見て、実感した。
大きな声でチームを鼓舞するからではない。ましてや、そつなくプレーすることでもない。
不器用ながらに懸命に取り組む姿勢こそがコウタの武器。
それは周りにいる人の心を揺さぶり、前へと進ませる。
それが、チームの力になっていたのだ。
家に戻ると、カバンから“そっ”とグローブと取り出し、いつものグローブ置き場に、グローブを立てるようにして丁寧に置いた。
午前中に遊びに行った友達の家に持っていっていたようだ。
野球をやろうとしたのか、どうなのかはわからない。
ただ、携帯ゲーム機とともにグローブを持っていっていた。
娘の帰りが遅くなっていたため、久しぶりに二人きりでの夕食。
今ハマっているゲームの話、学校の話、友達の話…。いろいろな話をしてくれた。
思えば、ここずっと、コウタとの話と言えば“野球”のことだけだった。
コウタの話を聞けば聞くほど、自分が恥ずかしくなった。
コウタが頑張っているのは野球だけではない。勉強も、学校の行事も、友達との関係も、全てにおいて頑張っていた。
「オレなら大丈夫!」
コウタがそう私に語りかけてるような一日だった。
そして明日、最後の支部チャンピオンを決める「秋季大会」が開幕する。
追記
このブログを見てくださっている皆さん、皆さんとお会いできる機会も、残りわずかとなりました。
グランドで私を見かけたら、ぜひ声をお掛けください。
よろしければ、コウタたちとお子様たちと一緒に写真を撮らせてください。
オールスターの時もコウタはみんなの応援に行きますので、会場にはいます。
コウタの事故をきっかけに始めたこのブログ。
最初の頃は「本当に野球ができるようになるのか…」という不安の連続でした。
しかし、皆さんに観ていただいていたこと、声を掛けていただけたことが、どれだけ彼に力を与えたことか計り知れません。
団体行動ですので、なかなか難しいかもしれませんが、チャンスがあればお願いします!
ちなみに私ですが、常に紺色の「フレンズ応援シャツ」を着ているノッポの黒縁メガネです。
背中には「KOUTA 10」を“ド~ン”と背負ってます!
このブログも残りわずかとなりましたが、どんなフィナーレを迎えるのか!?
自分自身も楽しみでなりません!
