7月17日。
この日は、雄踏グランドにて「第18回マクドナルドカップジュニア軟式野球大会」浜名湖支部予選と、「第5回Z会旗学童軟式野球静岡大会」浜名湖支部予選が行われる。
昨日、足が痛くて練習をしなかった“エース”サトシと、体調不良で早退した“キャッチャー”コウヘイも元気にアップをしていた。
なんとかベストメンバーで試合に挑めそうだ。
フレンズは、第2試合目で1回戦を勝ち上がった“超強豪”三ヶ日ジュニアファイターズとジュニア戦(5年生以下)を行った後、第3試合目で県大会出場を懸けた“大一番”となるZ会旗杯浜名湖支部予選の準決勝(対岡崎)が行われることになっている。
ジュニア大会は“不動”の4番、キョウタロウが先発。
キャッチャーにはキョウスケが入った。
肘痛で戦線離脱していたキョウスケは約4ヶ月ぶりのマスク。
試合は序盤戦、キョウタロウが抜群の投球を披露するが、中盤にエラーが続出し、1イニングで大量8点を失う。
悔しくて、悔しくてマウンドで涙を流すキョウタロウ…。
マウンドは孤独…。
どんなことが起ころうが、3人をアウトに取るまでマウンドに居続けなければならない…。
とても耐えられないであろう“孤独”と“絶望感”がキョウタロウに襲い掛かる…。
その後、反撃を試みるが追いつけず敗戦…。
試合後、“4番”のキョウタロウと“ショート”のコウスケが泣いていた。
このふたりはレギュラーチームでも中核の“4番”と“ショート”。
第3試合目となる、県大会出場を懸けたZ会旗杯開始まではあと30分…。
それまでにふたりの気持ちは戻るのか…。
不安が募る…。
さらにもうひとつ不安が…。
“エース”のサトシと“キャッチャー”のコウヘイがすぐに居なくなる。
あまりの緊張でトイレが近くなっていたのだ…。
特にサトシの両肩には“ズシリ”と重いプレッシャーが圧し掛かっていたように思う。
今年のフレンズはサトシに“おんぶに抱っこ”のチーム。
エースであるサトシはチームの“ホームラン王”でもある。
サトシが投げて、サトシが打って、勝利を手にすることができた。
JA杯で、県大会に迫ったのもサトシの快投があったからこそ。
この大会(Z会旗)でも準決勝まで進めたのは、準々決勝のジュニアファイターズ戦、特別ルールの延長戦で、ノーアウト満塁を“無失点”に抑えたサトシの“怪投”があったからこそだ。
そもそもコウタがファーストにいるのも、サトシに声を掛けるため。
サトシを孤独にしないためだけにいる。
「今日はサトシが投げるから後攻をとる!」
トスを行う前のコウタの言葉。
試合開始直後はどうしても浮き足立つため、攻撃から始めたいところだが、コウタはトスに勝ち、後攻を選んだ。
圧倒的なサトシへの信頼感!
そもそも今年のチームは「サトシで負ける」ことを目標に頑張ってきた。
連戦でサトシを温存する場合は、みんなでサトシに繋ぐことためにプレーし、サトシに繋げた。
先の遠州大会は初戦でサトシを温存。みんなで勝利し、サトシに繋げた。2試合目は負けたが、「サトシで負ければしょうがない」といわんばかりに悔しさは微塵もなかった。
ブルペンで投球を続けるサトシは、明らかに“硬い”…。
「サトシ、お前は支部ナンバーワンピッチャーだよ。だから大丈夫。いつも通りやれば大丈夫だよ」
笑顔で、うなずいたが、その表情は明らかに硬いのだ。
それでも心の中では叫んでいた。
「サトシ、頼む!県大会へ連れてってくれ!」
午後1時。
県大会出場を懸けた「Z会旗杯」準決勝の岡崎戦、フレンズにとって“運命の一戦”ともいえる試合が始まった。

先発のマウンドは当然“エース”サトシ。まだ誰も投げていない、まっさらなマウンドに立つ。

“いつも通り”ファーストにはコウタ。

ライトには復調の兆しの見えるキョウスケが入った。
しかしサトシが明らかに“おかしい”…。
本来、コントロールがいいはずのサトシがストライクがなかなか入らない…。
先頭バッターはなんとかピッチャーゴロに仕留めたものの、2番バッターにヒットを許すと、その後2者連続フォアボール…。
ワンアウト満塁。

ベンチはたまらずタイム!

タイムが利いたのか、なんとか後続を打ち取り無失点で切り抜ける。

1回の裏、フレンズの攻撃は“切り込み隊長”ユウから。

いきなりツーベースヒットを放つ!大舞台だろうが、なんだろうが関係ない。ユウはいつでもユウ!ホントに頼りになる“副キャプテン”だ!
その後ツーアウトをなるが、バッターボックスは“4番”キョウタロウ。

センター前へタイムリーヒット!フレンズ先制!※写真はファールですが、この直後に打ちました。
キョウタロウが盗塁を決めチャンスが続くが、5番サトシはあえなく三振…。
何かがおかしい…。
1回が終わって1対0でフレンズリード。
先制したもののサトシの様子がおかしい…。
いきなり2者連続でフォアボール。
次の打者の初球ワイルドピッチでランナーが進塁し、ノーアウト2、3塁。
さらに牽制が悪送球となり、2者生還。
ノーヒットで逆転を許す。
“いつも通り”みんなが必死にサトシに声を掛けるが、その声は届かない…。
ランナーがいなくなったが、ヒットを打たれ再びランナーを背負う。
次の打者をセカンドゴロに仕留めると、その後の打者はピッチャーフライ。
落ち着くかと思われたが、ここでまたもやワイルドピッチ…。
さらに四球、盗塁と攻め立てられ、ツーアウトながらランナー2、3塁。
次のバッターの打球は三遊間の深い所へ。
ショートのコウスケが追いつきファーストへ送球するが、“際どい”セーフ…。
その送球の間に2塁ランナーもホームへ突入し、2点を追加される…。
2回が終わって1対4。岡崎にリードを許す。
ベンチの中ではサトシが泣いている…。
試合中にも関わらず、涙を流している…。
コーチが懸命にサトシを励ますが、サトシの涙は止まらない…。
本来のピッチングができない自分への悔しさ…。
絶対に負けられないというプレッシャー…。
12年ぶりの県大会出場という重圧…。
そして、自分がやらなきゃ、という想い…。
全てがサトシに、重く重く圧し掛かっていた。
サトシがもう一年早く、もしくはもう一年遅く生まれていれば、もっと頼りになるバックに支えられ、もっと強いチームでプレーできていた。それがコウタたちと同じ年に生まれてしまったために、ひとりで全てを背負うことになってしまった。
以前、サトシにポロっと言ったことを思い出した。
「一年ずれてれば、もっと強いチームで野球できたのにゴメンな」
サトシは笑顔でこう答えた。
「オレはこの年がいい、って言うかこの年じゃないとイヤだし」
サトシで負ければ悔いなし!
改めて強く自分に言い聞かせた。
2回の裏のフレンズの攻撃はツーアウトからランナーを出したものの無得点。
2回が終わって1対4。岡崎がリードしている。
3回の表、岡崎の攻撃。

なんとマウンドに上がったのはコウタ!
ベンチは、この大一番に“大黒柱中の大黒柱”サトシに代え、コウタをマウンドに送った。
サトシは、目を真っ赤にしたまま、コウタに代わりファーストへ。
ざわつく応援席…。
それもそのはず。
コウタが相手を抑えた印象はない。
印象というよりも実績がない。
遠州大会では河輪セブン相手に6失点…。
磐田大会では六郷相手に12失点…。
三ヶ日大会に至っては試合をぶち壊した…。
(まさか諦めたのか…)
初夏の強い日差しが容赦なくグランドを照りつける。
投球練習が終わり、主審がコールする。
「プレイ!」
3回の表、岡崎の攻撃が始まった。