7月16日。
Z会旗大会浜名湖支部予選前の最後の練習。
とにかくいい雰囲気で翌日の試合に臨みたい。
だが、いきなり不安な出来事が…。
エースのサトシが原因不明の右足痛で通常練習不参加…。
さらに、キャッチャーのコウヘイが体調不良で途中帰宅…。
とにもかくにも不安まみれの中、練習が進行…。
レギュラーがふたりも欠けると、練習もままならない…。
ミスも続出し、コーチから怒号が飛び交う…。
とにかく雰囲気が悪い…。
誰かひとりでも欠ければそれはフレンズではない。
そんな中ではあるが、5年生のお父さんはメチャクチャ雰囲気をつくってくれていた。
「オマエのミスのせいで6年生が終わるぞ!捕れなくてもいいから体で止めろ~!」
5年生たちの目の色が変わる。
とはいえ、下級生のミスで負けても、下級生のせいにするつもりは毛頭ない。
そもそも、下級生がいなければ試合ができない。
下級生にあるのは感謝の気持ちだけ。
時間を見つけて、先日、コウタが言っていたことを数人の下級生に伝えた。
「コウタが“オマエらの声があってこそのフレンズだから”って言ってたよ。だから、明日はオマエらの声がないと勝てない。なんとか勝たしてやってくれ!」
その話を聞いた下級生たちは試合に出る可能性はない。
しかし、その子たちの“生きた声”があってこそのフレンズ。誰が欠けてもフレンズではないのだ!
それを聞いている下級生は真剣な表情でこっちを見つめていた。
誰も目をそらさない。
ホントに真剣な表情でこっちの目を見ていた。
プレッシャーをかけて本来のフレンズでなくなる可能性もあるため、想いを伝えようか随分悩んだ。
だが、言うことを選んだ。
微塵も悔いは残したくない。
背中を押したのは紛れもなくコウタの言葉
「あいつらの声があってこそのフレンズだからさ」
もはや迷いはない。
考えてみれば、コウタ世代はそもそも失うものがなにもない。
6年生になる直前まで、「来年は6年生は試合に出れないぞ」と言われていた。
これは脅しではなく、全くの事実。でなれば、子供たちに言っても、6年生の親には言わない。
それを聞いた親からしてみれば、“覚悟”が必要だった。
6年生が出ていない試合を6年生の親が運営する覚悟が…。
しかし、その状況を変えたのは、全てコウタたち自身。
誰が助けてくれた訳でもなく、6年生自身が自分たちの立場を豹変させたのだ。
この程度のプレッシャーが重荷になるのであれば、“間違いなく”もっと前に潰れてる。
相変わらず野球は上手くない。
本来の実力的にはとても県大会に出場できるチームではない。
ただドラマ性は最高峰!
今年のフレンズの戦いは“極上のエンターテーメント”だ!
明日は、JA杯の引佐戦、磐田大会の六郷戦、そしてZ会旗でのジュニアファイターズ戦のような、“フレンズ”の戦いを見せてくれるはず!
午前中で練習が終わり、コウタと話をする機会があった。
「オレらにとって、明日って、甲子園を懸けた試合みたいなもんだよね」
人生において、“どうしても負けられない戦い”というのは、ありそうで意外とない。
2回あるかどうか。1回もない人も多い。
少なくとも、明日はその“1回”。
くしくも今日、三ヶ日中学校の野球部と女子バレー部が県大会出場を決めた!
野球部にはコウタの先輩がいるし、女子バレー部にいたっては近所の子がキャプテンをやっている。
数ある中学校の部活の中で最も思い入れがあるふたつの部活が県大会出場を決めた!
「マジで!すげえ!絶対オレらも行く!」
みんなで行こう!
県大会!
誰ひとり欠けずに行こう!
県大会へ!
子供たちも、そしていつも協力してくる下級生の親御さん、みんなが揃っての“三ヶ日フレンズ”。
下級生にも、下級生の親御さんにも、ただただ感謝。
たぶん、こんなにいいチームは他にない。
こんなにいいチームだったら、強くなくったって県大会に行ってもいいはず。
みんなで行こう!県大会へ!
