第92話/“勝つ”ために!

決勝戦。

フレンズは一塁側に移動。
風はまだまだ強いが、さっきまでいた三塁側ベンチに比べれば格段に暖かく感じる。

この試合が本当の“最後”。
相手は“絶対王者”三ヶ日ジュニアファイターズ。
フレンズ同様、例年より“力が劣る”年代と言う人もいるが、黒潮杯では支部15チームの頂点に立ち、県大会に出場した、“常勝”チームだ。5年生にいたっては、県大会出場どころか、県大会“準優勝”をすでに果たしている。
今年は、Z会旗杯支部予選と町内大会で2度対戦し、サトシの活躍でフレンズが連勝。
このレベルのチームにフレンズが勝つには、“絶好調”のサトシがいなければ勝つことはできない。

第92話/“勝つ”ために!

第92話/“勝つ”ために!

試合開始。

先攻は三ヶ日ジュニアファイターズ。

第92話/“勝つ”ために!
フレンズ“最後”の試合。最後のマウンドにあがるのはサトシ。

フレンズの出来はサトシの出来。典型的な“ワンマン”チーム。
それでもチームが“バラバラ”にならず、みんなが同じ方向を向いて戦えたのはサトシのおかげだ。
チーム内にひとりだけ“ずば抜けた”子がいると、通常その子が“お山の大将”になり、チームの和を乱す。
サトシの場合、そういう傾向が全くない。特にいつでもコウタをたててくれた。コウタがキャプテンとしてみんなを引っ張れたのは、サトシのおかげだ。サトシの優しさは親譲り。サトシのような“逸材”を子供に持つと、大抵の親は自分の子だけしか見なくなる。チームの勝敗よりも、我が子の出来。しかしサトシの両親は、いつでも“みんな”を観てくれた。サトシと同じように、“みんな”に接してくれた。

この親にしてこの子あり。

まさにそんな親子だ。この親子が一緒にいたから、本当にいい思いをさせてもらった。感謝してもしきれない。

サトシの課題は“立ち上がり”。
初回はどうしても制球が定まらず、失点を許すことが多い。
リズムに乗った中盤以降は素晴らしいピッチングをするため、立ち上がり、特に初回は丁寧に行きたい。

が、いきなりフォアボール。
さらに送りバントが、切れそうで切れない絶妙な所に転がり内野安打。

第92話/“勝つ”ために!
こればかりは“名手”コウスケでもどうしようもない…。

さらにダブルスチールを決められノーアウト2、3塁。

第92話/“勝つ”ために!
いきなりの“大”ピンチ…。

ファイターズはほとんど“ミス”のないチーム。
試合は1点勝負。
内野はバックホーム体制。

突如、3塁へ牽制!

「アウト!」

サトシは投げるだけではない。
守備も上手いし、牽制も上手い!

ワンアウト2塁となったが、内野ゴロでツーアウト。

第92話/“勝つ”ために!
最後はピッチャーゴロ。

いきなりのピンチを無失点で切り抜けた。
先頭バッターにはフォアボールを与えたものの、その後は落ち着いたピッチング。
ピンチは招いたが、調子は良さそうだ。

1回の裏のフレンズの攻撃は、2番のコウスケがヒットで出塁したものの、他のバッターは力みに力んで凡退。

1回を終わって両チーム無得点。

2回に入るとサトシが早くもギアアップ!

第92話/“勝つ”ために!
相手バッターを全く寄せ付けず三者凡退!

2回の裏のフレンズの攻撃も、ファイターズのエースに手玉に取られ、こちらも三者凡退。
早くも“投手戦”の様相だ。
こうなると“ミス”が出たほうが負ける。
ミスが出る確率はフレンズの方が圧倒的に高い。
どうしても先に点を取りたい。

この日もフレンズの4年生は大きな声で応援してくれた。
その声は夏前頃に始まり、一回も欠けることなく、常に6年生、そして試合に出ている子を応援してくれた。
それは誰にやらされたものでもない。
4年生が、自分たちで考え、自分たちで相談し、自分たちで始めた応援だ。

昨年までのフレンズといえば“ヤジ”が応援の主流だった。
特に相手ピッチャーをトコトン“ヤジる”。
これも勝つための“手段”ということらしいが、ずっと気持ち良くなかった。

野球の素晴らしさは“豊かな人間を育む”ことにあると思う。
チームメイトと一緒に同じ目標に向かって進む姿勢は美しい。
そのために苦しい練習に耐え、自らをトコトン磨く。
その結果として“仲間とともに”目標を達成する。

それは「勝てばなんでもいい」という類のモノではない。
もっと尊いモノのはずだ。

コーチや監督の“罵声”によってチームがまとまる、という話も聞いたことがあり、チームが団結するための手段として、“罵声”や“ヤジ”が存在するのも理解はしている。
これは“好み”の問題なのだが、好きではない。

フレンズはいつしか、全く“ヤジ”らないチームになっていた。

グランドはピッチャーとともにバッターに向かう声で満たされ、ベンチからはその選手たちを鼓舞する応援歌が常に流れていた。

この子たちの応援があったからこそ、今年のフレンズは“らしく”いられた。
この子たちの応援がなければ、結果はなかった。
この子たちがいてくれたからこそのフレンズだったのだ。

ベンチを覗くと、“ちょっとした”異変に気がついた。

コウタの座る場所が“おかしい”。

コウタは通常、監督もしくはコーチの隣に座る。
新チームになったから、ずっと“ソコ”が指定席だった。
しかし、この最後の試合。
コウタは今までと全く違うところに座っていた。

第92話/“勝つ”ために!
いつも応援してくれる4年生の隣に座っていた。

4年生の考えてきた応援歌を教えてもらい、一緒に大声で歌った。
4年生のそばで、一緒にバッターに声援を送っていた。

コウタはわかっていた。
この子たちの声援がなければ勝てなかったということを。
この子たちの応援がチームを一丸にしてくれたということを。
だから、“最後”は一緒に応援したかったのだ。

4年生のみんな、本当に、本当にありがとう!
君たちが応援してくれたフレンズが心の底から好きだ!

試合は3回が終わり、依然0対0。

これは、静岡県の最も西の三ヶ日町というちっぽけな町で行われている、ちっぽけな町内大会。
にもかかわらず、ピリピリとした緊張感が、グランドだけではなく、会場となっている三ヶ日西小学校全体を包み込んでいた。

4回、遂に試合が動き出す。


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あとがき(2012-04-26 21:04)

この記事へのコメント
日曜日、お疲れさまでした。

私もどちらかというと”ヤジ”は否定派なんです。

以前にも私のブログにも書きましたが、チームでの目標は確かに、優勝したり勝つことになると思いますが、少年野球としての目的は違うところにあると考えています。

野球を通じてスポーツの楽しさや人間関係を形成するひとつの手段として成っていると思います。

今年のフレンズは本当に変わったと感じました。

以前は、正直やりたくない相手でしたから・・・

その前に練習試合なんかやってもらえるレベルではありませんでしたが・・・

いよいよ、最終戦・・・楽しみにしています。
Posted by ケロロ少佐 at 2012年02月21日 08:40
あくまで“変わった”のは、子供たちが勝手に“変わった”だけのこと。
チーム方針が変わったわけではありません。
なので、子供たちが“自発的”に声を出さないと、以前の状態に戻る可能性は充分あると思うので、注意が必要かもしれません。
※注意のしようがありませんが…。
Posted by ワカさん at 2012年02月21日 12:49
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