第90話/“結果”への募る想い!

ベンチも我々がいる応援席も日陰。
薪を焚いてくれたが寒い。
体の底から冷える。

試合で暖まった体も冷たい強風にさらされ、すぐに冷える。

第90話/“結果”への募る想い!
体を冷やさないよう、イニングの合間もキャッチボールを続ける。

とになく追加点が欲しい。

3回の表のフレンズの攻撃は、3番のキョウタロウからの好打順。
キョウタロウはサードゴロにた倒れたが、

第90話/“結果”への募る想い!
サトシが強烈なセンター前ヒットで出塁!

続くエイスケの出塁すると、まさかのダブルスチール!

ワンアウト2、3塁の大チャンス。

バッターボックスにはコウヘイが入る。
コウヘイは秋口からバッティング技術が向上したことで、持ち前のパンチ力に磨きがかかり、サトシに次ぐキーマンになっていた。

期待はデカい!

第90話/“結果”への募る想い!
が、完全に力み、あえなく三振…。

続くバッターはコウタ。
自分のバットで自分を楽にしたいが期待は薄い。

家でも一生懸命バットを振っていたが、全く結果に結びつかず、野球をやる上でのある種のコンプレックスになっていた。
バッティングは残酷で、数字となって隠しようのない結果が出る。走塁ミスやサイン見落としなどのミスは数字では見えないが、バッティングだけは数字化されているため、一見で“打ててない”ことがわかってしまう。
走塁ミスやサイン見落とし、判断間違いなどはほとんどないコウタだが、バッティングだけは全く駄目。
練習をサボっている訳ではなのだが、どうしても結果が出ないのだ。

コウタが使っているバットは“ユウ”のバットだ。
ユウがバットを新調したため、ほとんど新品のバットを借り受けた。
ボールが当たる部分の素材が違う、一般的に“ビヨンド”と呼ばれるバットだ。
ユウのお父さんから、
「これならきっと打てるから、使いな」
と言われ借りてからずっと使っている。
途中で違うバットが欲しくなり、一緒にスポーツ店に見に行ったが、買う寸前で、「やっぱりユウのバットがいい」と言って購入を取りやめたことがある。

コウタはユウのお父さんが「コウタに打って欲しい」と思って貸してくれたことを充分理解していた。
バットを代えることは、ユウのお父さんの気持ちを踏みにじることになる。
だから、どうしてもユウのバットで結果を出したかった。

試合が近づいた際の練習時には、コウタにだけコーチが付きっきりになり、マンツーマンでバッティングを教えてくれた。
みんなが10球しか打てない所を、コウタだけ50球も60球も打たしてくれた。

家を出る前、コウタは
「オレ、今日、絶対打つから!」

これが最後の大会。
みんなの思いに応えたかった。

大きな声を出し、バッターボックスに入る、が、

第90話/“結果”への募る想い!
積極的に打ちにいくも、あえなくファーストゴロ…。

チャンスでありながら得点を奪えなかった。
思いだけでなんとかなるほど野球は甘くない。

チャンスのあとにピンチあり。

よく言ったもので、この後ピンチをむかえることになる。

この回も先頭バッターにフォアボールを与えると、バントで送られ、内野ゴロの間に3塁へ進まれる。
初回とほぼ同じ展開。初回はこの後にスクイズを決められ得点を奪われた。

となるとこの回も…。

スクイズ!

予期していたのか、コウタは鮮やかに外す!
体は動いてないが、まだ頭は動いている。

挟まれるランナー。

この回もなんとか凌げるか、と思った矢先…。

悪送球!

ランナーホームイン…。

最悪のカタチで得点を許した…。

その後もピンチは続く…。

フォアボールやパスボールなどでワンアウト2、3塁…。

ピッチャー交代、のタイミングが迫る…。

(こりゃ、代えたほうがいいな…)

ブルペンに目をやるが、誰も投球練習をしていない。
ベンチに目をやるが、監督は動く気配すらない。

(まさか…心中…!?)

コウタはというと、ベンチに目をやることもなく、すぐさまボールを要求する。

この光景は、異様に違和感があった。
普通であれば、ベンチは次のピッチャーの準備をし、マウンドのピッチャーは、いつ代えられるか、が気になってベンチを覗く。
少年野球だけでなく、高校野球も、プロ野球だってそうだ。

しかし、監督は腕を組んだまま動く気配はなく、マウンドのピッチャーは代えられる心配を全くしていない。

そういえば試合前、監督はコウタにこう告げていた。

「準決勝はコウタに任す!」

通常の解釈なら、“先発”を任す、となる。
しかし、この二人の姿を観る限り、この時の任すは、“試合”を任す、だ。

いつからこんな“信頼感”が生まれたのだろう。
あんなに“すぐ”に交代させられていたコウタだが、いつしか完投させてもらえるようになっていた。

後続をなんとか抑え、この回は1失点で切り抜けた。

3回が終わって3対2。リードはわずか1点となった。

4回の表フレンズの攻撃は三者凡退…。

流れはパワーズへとさらに大きく傾く…。


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