2月12日。
いよいよ「お別れ大会」当日。
大会終了後、「卒団式」が行われ、コウタたち6年生の少年野球における全てのプログラムが終了となる。
とすると、「お別れ大会」は“卒業試験”とも言える。
今までの成果を発揮する場だ。
そもそも例年のお別れ大会は、三ヶ日ジュニアファイターズの思い出づくりの場だったような気がしている。
試合になかなか出場できなかった6年生も全員が出場し、しかも圧倒的に優勝する、というのがこの大会だった。
「ファイターズだから試合に出られなかったかもしれないが、他のチームに行けば、圧倒的にレギュラーだったんだよ」
そんなメッセージが込められていたような気がしていた。
ここ数年、フレンズは善戦するも“思い出づくり”感満載のファイターズに敗れていた。
「最後はファイターズに勝ちたい!」
それが歴代のフレンズのモチベーションとなっていた。
それが今年は少し違っていたようだ。
ファイターズが「打倒フレンズ」を掲げ、猛練習をしていたというのだ。
真偽は分からないが、そんな話を聞いた。
事実だとすれば、それは「打倒フレンズ!」ではなく、「打倒サトシ!」ということなのだが…。
調子に波があるものの、良い時のサトシは紛れもなく“支部No.1”の選手だ。
フレンズではなく、もっと強いチームでプレーしていれば、サトシは“もっと”凄い選手になっていたのでは、と思うことがある。
フレンズじゃない弱小チームにサトシがいれば、そのチームが“県大会”に出場したのはないか、と思ったこともある。
それでもサトシは「フレンズが良かった」と言ってくれた。
この日の前日、小学校のPTA会長さん主催の「6年生と遊ぼう会」があり、そこで会長さんに聞かれた。
「今年のフレンズは凄く強かったって聞いたけど、なんで?」
「サトシがいたからですよ!」
しばらく会長さんにサトシの“自慢話”を続けた。
「そうか。じゃあサトシくんと話がしたいな」
と言うので、すぐにサトシを呼んだ。
サトシの凄さをもっと話そうと思ったのだ。
隣にいたエイスケも呼んだ。
「エイスケが打ったから県大会に行けたんだ」と言いたかったのだ。
フレンズの子、みんなを自慢したかった。
会長さんの下へやってきたサトシはいきなり質問をされていた。
「おお、凄そうだな!」
会長のその言葉を聞くや否や自慢話をしようと思ったのだが、
先にサトシが口を開いた。
「いやいやウチはキャプテンが凄いんです!」
「はあ!?サトシ何言ってんの?」
冗談だと思い、すぐさま突っ込んだ。
「いやいやマジで!アイツがマジで凄かったから県大会に行けたんですよ!」
悪戯っぽく遠くのテーブルにいるコウタを指差した。
これにエイスケも便乗する。
会長さんもうなずきながら
「コウタくん、って言えば若松くんの息子さんか。彼が凄いのか。」
もちろん、すぐさま否定するも、今度はサトシが真顔で言った。
「マジです!」
隣でエイスケも大きくうなずいていた。
本気で言っているように思えた。
大人をからかっているのかもしれないが、“マジ”で言っているように思えた。
半分冗談で、半分は“本気”。
サトシとエイスケはコウタを必要としてくれたのだ。
コウタは、サトシがマウンドで孤独にならないように必死で励ました。
コウタは、エイスケがなかなかスランプから脱しれないバッティングを心配していた。
そんなコウタの優しさはコウタが自発したものではない。
サトシやエイスケのコウタに対する信頼と優しさが、コウタを動かしていたのだ。
サトシだけではない。
コウタも「フレンズが良かった」のだ。
話は当日に戻る。
いつもは自転車で行くのだが、この日は「卒団式」があり、帰りが遅くなるため、車で送った。
車中でコウタとこの日対戦したいチームについて聞いてみた。
「ファイターズとパワーズ!」
ファイターズはわかる。
三ヶ日の野球チーム全ての目標チームだからだ。
しかしなぜパワーズなのか。
理由を尋ねると、
「練習試合で負けてるから」
と返ってきた。
確かに年末の練習試合でフレンズはパワーズに負けた。
しかしそれは試験的要素が強い試合で、数多くの4年生を試した試合だった。
6年生の試合に初めて出場する子が多く、たくさんミスが出た試合だ。
要は、誰も意に介していなかった。
しかしコウタは違った。
理由は関係ない。
負けは負け。
リベンジするためのパワーズだったのだ。
三ヶ日パワーズは夏過ぎまでもがいていた。
なかなか結果が出ず苦しんでいたが、秋口から急激にチームとして機能しだし、準優勝した秋季大会では2回戦で対戦し、終盤まで実に苦しめられたチームだ。
コウタの話を聞き納得。
組み合わせは当日のくじ引き。
フレンズは“第1シード”のためくじは引かないが、他の4チームはくじ引きで対戦相手を決める。
コウタの思いを聞いていたので、シード下のブロックにパワーズが、反対側のブロックにファイターズが入ることを祈っていた。
そうなればコウタの理想どおり。
さらに加えると、コウタは先にファイターズと戦い、決勝でパワーズと戦いたいと言っていた。
コレは単に「決勝で投げたい」ということなのだが、仮にフレンズがファイターズに負ければ、大会は“最悪”の2日目突入となる。
そもそもフレンズよりもファイターズの方が実力は上。この組み合わせでは2日目突入は“ほぼ”確定。
だから、ファイターズは反対側にいてもらわないと困るのだ。
程なくして組み合わせが発表された。
フレンズがシードのブロックは、今年でチームがなくなり、来年からフレンズと合併する三ヶ日スターズと、コウタがリベンジを誓った三ヶ日パワーズが入り、三ヶ日ジュニアファイターズは反対側のブロックに入り、三ヶ日ジャガーズと対戦することになった。
まさに理想どおり!
パワーズとスターズの試合は両エースの投げ合いとなったが、暴風吹き荒れ、砂が舞い上がる天候となったこの日、“ソレ”が気になったであろうスターズの左腕エース(来年のフレンズのエース)が制球を乱し自滅。コウタの希望通り、フレンズの対戦相手はパワーズに決まった。
別の会場で行われている試合はファイターズが勝ったとの情報が入り、ファイターズがひと足早く決勝進出を決めた。それもエースと2番手を残しての勝ち上がり。例年とは大会の雰囲気が少し違うような気がする。
その頃、監督から試合の先発が告げられた。
「先発はコウタ!」
コウタが少年野球“最後”のマウンドにあがる。
