2回が終わって3対4でガッツがリード。
3回の表のフレンズの攻撃は、ランナーを出したものの、相手の好守もあり無得点。
ガッツは良く鍛えられており、(フレンズとは違い…)エラーがない。
勝つためには、これ以上の失点は避けたい。
3回の裏、ガッツの攻撃。
先頭バッターの打球は三遊間深い所へ飛ぶが、ショートのコウスケがこれを好捕し、すかさず1塁へ。
「セーフ!」
間一髪で間に合わずに、ノーアウトのランナーを許すと、盗塁され、ノーアウトランナー2塁。
次の打者の打球が再び三遊間へ。
再びコウスケが好捕するも、フィルダースチョイスで、ノーアウトランナー1、3塁。
完全なる“ピンチ”!
低めにボールを集めるサトシだが、勝負球がワンバンし、コウヘイが捕れずに1点を献上。
さらにファーストゴロの間にランナーが生還し2点目。
3回を終わって3対6とガッツが3点リード。
フレンズにとっては実に苦しい展開。
4回の表のフレンズの攻撃はコウヘイから。
コウヘイがデッドボールで出塁。
待望のノーアウトのランナーが出た!
次のバッターはコウタ!

ベンチをサインをじっくり見る。

「バント!」大舞台でもいつも通り“キッチリ”送ることができた。
ワンアウトランナー2塁。

続くヒロキの所で“エンドラン”。ヒロキがなんとか転がしランナーを進める。いつもと違って、この日は“エンドラン”が異様に多い…。
期待されたタツヤだが、高目のボール球に手が出てしまいキャッチャーフライ。
ランナーを出すものの、ホームが遠い…。
完全にガッツのペース…。
4回の裏、ガッツの攻撃。

サトシの剛球がうなりをあげる!
三者凡退に仕留めた!
(流れがくるか!)
5回の表、フレンズの攻撃。
打順は1番のユウから。
まさに、この上ない打順!
流れがきそうな予感!
「ユウ、出ろ!!」
ベンチから、応援席からユウへ大きな声援が飛ぶ。
とにかく、ユウが出塁すれば“何か”が起こる!
フレンズの奇跡はいつでもユウが出塁して始まる!!
「頼むぞ、ユウ!!」

みんなの期待を一身に背負っての打席となるユウだが、結果は三振…。
チーム全体に不穏な空気が流れる…。
こんな状況の時、必ずと言っていいほど、ユウは出塁してきた。
見ているコッチも、“当然”出塁すると思っていた。
根拠などどこにもない。
ただ、この状況なら、ユウは“絶対”に出塁すると思っていたのだ。
そのユウが三振…。
静まり返るベンチと応援席…。
だが、すぐさまチャント(応援歌)がグランドを包み込む。
チャントを歌っているのは4年生の5人。
試合には出ないかもしれない。
だが、この日のために、数え切れない程多くのチャントを作ってきた。
その、ひとりひとりが目一杯声を張り上げたチャントは、選手を、ベンチを、そして応援席をも勇気付ける“魂”のチャントだった。
“たかが応援歌”という人がいるかも知れない。
“プレーには関係ない”と思う人がいるかも知れない。
だが、4年生が、この日のために自分たちで考えた応援歌。
選手も、我々応援席も、初めて聞くモノばかり。
相当練習をしたことだろう。
「この子たちがフレンズにいてくれて良かった」
心の底からそう思った。
なんと勇気付けられる応援。
涙が溢れてきた。
バッターボックスは4年生のコウスケ。
4年生の声が一層大きくなる!

「カキーン!」
コウスケの放った打球は、4年生みんなの想いをのせライト前へ。
必死で走るコウスケ。
4年生の声援がコウスケの背中を押す。
ライトからファーストへボールが送られる。
「飛び込め~!」
4年生が一斉に叫ぶ!
“ヘッドスライディング”!
「セーフ!」
ワンアウトからランナーが出た!
続くキョウタロウはフォアボールを選び、バッターボックスにはサトシ。

打球は真っ直ぐセンター前へ!
ワンアウト満塁!

バッターボックスには“奇跡の男”エイスケ。
フレンズの逆転劇は常にこの男とともにあった。
緊張感が見ているコッチにまで伝わる。
全くタイミングが合っていないが、必死に粘る。
エイスケは粘っている内にタイミングが合って、「ドカ~ン」と打つ。
「きっとこの日も…」
我々は祈り、ベンチは大声で声援を送る。

が、結果は三振…。
まさかの三振…。
完全に、野球の神様はソッポを向いてしまっている…。
だが、ここでも4年生のチャントがみんなを奮い立たせる!
ツーアウトだが、満塁だ!
パスボールで1点を返すと、

コウヘイの打球がエラーを誘い、さらに2点が入る!
同点!!!
3点差を追いついた!
これぞフレンズ!
県大会という舞台でも、いつも通りの“諦めない”野球ができている!
なんという子たち!
誰がどう見ても一番ヘタなチーム。
それでも、諦めずに相手に食らいつく。
なんと誇らしい子供たち!!
涙が止まらない。
5回表が終わって6対6。
きっちり0点に抑えたいガッツの攻撃だが、いきなりツーベースヒットを打たれる。
サトシにとっては悔いが残る“置きにいった”棒球…。
「サトシ、打たれてもいいから悔いが残る球は投げるな!」
コウタがサトシに声を掛ける。
うなずくサトシ。
次の打者はサードゴロに仕留めたものの、再びツーベースを打たれ1点を奪われる。

チームのため、必死で投げるサトシ。
ショートゴロ。
ツーアウト。
1点差なら、まだまだわからない。
セカンドゴロ。
「よし」
打ち取った!
ボテボテの打球がセカンドのヒロキの正面へ飛ぶ。
大事に待って捕ろうとするヒロキ。
ツーバウンドしたボールは、無常にも待って捕ろうとしたヒロキの頭の上、差し出したグラブをかすめながらライトへと転がる。
湧き上がるガッツベンチ。
一方のフレンズのベンチからは首脳陣の怒号が飛び交う。
ヒロキはまだ5年生。
もう一年ある。
この打球処理は一年後への課題。
ホントによくやってくれている。
ガッツ1点追加。
その後のバッターにも出塁を許し、ツーアウト1、2塁。
次のバッターに対しては追い込むとセンターに打球が飛ぶ。
「よし、センターフライ!」
誰しもがそう思ったが、ユウが定位置にいない。
ユウがいた場所はセカンドベースのすぐ後ろ。
サインプレーがあったのかもしれないが、ユウはセカンドベースのすぐ後ろにいた。
ボールが外野を点々とする。
ランナーが次々と生還し、打者走者もホームへ…。
まさかのスリーランホームラン…。
5回が終わって、6対11…。
終盤になって大きく試合が動いた。
試合の大きなうねりはガッツへと大きく、大きく傾く。
6回の表、フレンズの攻撃。

ここで“切り札”キョウスケを投入!
キョウスケは4年生だった昨年からレギュラーだった逸材。
今年はレギュラーキャッチャーだったが、春先に肘を壊し、まだ完治していない。
その影響からバッティングの不調だったが、ここにきて復調の兆しがある。
期待できる!
「カキーン!」
キョウスケが放った打球はレフト前へ!
「よし、先頭バッターが出た!」
そう思った瞬間、レフトが地面スレスレで飛び込みキャッチするファインプレー。
流れはガッツ。
次のタツヤの打球はサード後方へフラフラとあがるフライ。
サードが必死にバックするが、ライン際にポトリと落ちそうだ。
すると今度はショートが回りこんでダイビングキャッチ。
流れは完全にガッツ。
ユウはいい当たりだったがショートの好捕にあい、ここにきて“初”の三者凡退…。
敗色濃厚…。
気が付くと、グランドは夕暮れに包まれていた。
試合終了をカウントするかのごとく、刻一刻と、日が沈み始めていた。
しかし、グランドからはコウタの大きな声が聞こえてきた。
子供たちをよく見ると、目は死んでいない。
みんなが大きな声を出し、それぞれがボールを“呼んで”いる。
諦めていない!

マウンドのサトシも“当然”諦めていない!!
ピッチャーゴロ、サードゴロ、そしてこの試合、県大会において最後になるであろうバッターを三振に仕留め、三者凡退!
ホントに良く投げた!
自分が知る限り最高のピッチャー!
最後の最後でサトシらしいピッチングができた!
全力でベンチへ戻る子供たち!
「絶対逆転するゾ!」
コウタの号令で、ベンチが一段と盛り上がる!!
最終回のフレンズの攻撃。
2番コウスケからの好打順!
4年生の応援にも一層力が入る!!
この試合で最も大きな声援をコウスケにおくる!!
誰も諦めていない!!
諦めないのがフレンズの野球だ!!
「頼む!コウスケ!なんでもいいから出てくれ~!」
しかし、バッターボックスにコウスケの姿はなかった。
(代打…)
ワンアウトランナーなし…。
それでも、それでも“子供たち”は諦めていない!!
3番のキョウタロウがヒットで出塁すると、2塁へと進み、バッターボックスにはサトシ!
だが、ここは勝負をしてもられえずフォアボール。
ワンアウトランナー1、2塁。

バッターボックスには“奇跡の男”エイスケ!先の打席でもチャンスが回ってきたが、あえなく三振…。
柄にもなく気負い過ぎ…。
なぜか、いつもエイスケにチャンスが回ってくる。

この打席も全くタイミングがあっていない。「打たなくては」という想いが強すぎる。
「打たなくては」と想って打てるほど、野球は甘くない。
大切なのは“平常心”。
心を整えることだ。
そもそも、こういう場面でエイスケが打ったからこそ、ここにいる。
チームが劣勢の中でエイスケが“数々”の奇跡を起こしたからこそ、フレンズは県大会に出場できたのだ。
仮に打てなかったとしても誰もエイスケを責めることはない。
あるのは“感謝”だけ。
エイスケらしいバッティングをしてくれればそれでいいのだ。
「エイスケ!何も考えるな~!」
これは、エイスケが打つためのおまじない。

「カキ~ン!」
快音を残した打球は、あらかじめセンター寄りに守っていたセカンドの伸ばしたグラブに収まり、2塁へとボールを送られダブルプレーゲームセット。
エイスケの最後に放った打球は、実にエイスケらしい強いライナーだった。
野球はスポーツ。
当然、勝者がいれば、敗者がいる。
この試合でいえば、勝者が浜松ガッツで、三ヶ日フレンズは敗者。
だが、フレンズの野球を存分にできた。
6年生が“たった”5人のチーム。
その中の3人は、新チームになったばかりの頃、「お前ら、みんな試合に出られない」と本気でコーチに言われた“谷間世代”。
そんな子たちがチームの中心選手となり、県大会までやってこれた。
確かに、歴代のフレンズの中では確実に最も下手な6年生。
だが、諦めない気持ちは、だぶん歴代最高!!
たぶん、感動の大きさも歴代最高だ!!
この試合を見た5年生はどう思っただろう。
この試合を見た4年生はどう感じただろう。
みんな胸を張って言ってくれるだろうか。
「僕は三ヶ日フレンズです!」と。
間違いなく、この子たちは自分にとっての“誇り”。
さあ、胸を張って三ヶ日に帰ろう。