第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!

とにかく暑い!

3時を回っても相変わらずのうだるような暑さ。
それでも、テントの下にいると心地良い風が吹き抜けているのが実感できる。
ここにきて、風が出てきたようだ。

アップを終えた子供たちが“ダラダラ”と日陰を求めてベンチへとやってきた。
何とか子供たちのテンションを上げようと声を掛けるが、いつものような元気な返事は返ってこない。

トスの結果、フレンズが先攻。
いきなり守備をするよりも、攻撃から始めた方が“試合に入りやすい”ような気がしていたので、先攻で良かった。

3時30分プレイボール。

が、あっという間にフレンズの攻撃は終わる。
三者凡退で、うち三振がふたつ…。
ブラッツのエースの緩急自在のピッチングに全く対応できない…。

「上空は風があるからな!太陽の位置と合わせて準備しとけよ!」
守備へと向かう外野陣に声を掛けたが返事はない…。
どうやら全く耳に入っていないようだ…。

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
フレンズのマウンドはもちろん“エース”のサトシ。

チームがまだ試合に入っていけない状態の今、サトシに頼るしかない。
頼むぞ!サトシ!

先頭バッターをライトフライに仕留めるも、ライトのタツヤが目測を誤り落球し、ノーアウトランナー1塁。
エラーは仕方がない。ただ、この時は“明らかに”事前の準備不足。太陽の位置も、風も全く頭に入っていなかった。

いきなり盗塁!

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
ここはコウヘイが好返球を見せ、2塁アウト!

この後、ツーアウトランナーなし。
次のバッターは平凡なセンターフライ。
それを“名手”ユウがまさかの落球…。
完全に風が頭に入っていなかった…。
さらに続く負の連鎖。
次のバッターはこれまた“平凡”なセカンドゴロ。
だが、バッターの足が速く1塁セーフ…。

こうなるとサトシも踏ん張りきれない。
4連打を浴び、いきなりの5失点。

2回の表のフレンズの攻撃は、“4番”キョウタロウがヒットで出塁し、反撃の狼煙をあげる。
しかしその後の6年生3人が“衝撃”の三者連続三振…。

2回の裏、再びノーアウトからエラーでランナーを許す。

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
牽制を多めに入れて警戒はするものの、走りに走られる。

強豪チームは徹底的に足を使って攻撃を仕掛けてくる。

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
ブラッツも徹底的に足を使って攻め立てる。

この回も1点を奪われ、2回を終わって0対6。

5回終了時点で7点差が付いていればコールドゲーム。
早くも“コールド負け”がちらつく。

3回表に1点を返し1対6。

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
3回裏はサトシが三者凡退に切って取り、反撃ムードをなんとか創り出そうとする。

が、4回裏に“決定的”な3点を奪われ万事休す…。

4回が終わって1対9。
5回表にフレンズが2点取れなければゲームセット。

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
5回の表フレンズの攻撃は“諦めの悪い”6年生、キャプテンのコウタから。

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
しぶとくボールに食らい付いてヒットで出塁!

が、その後サインミスなどがありツーアウト。

バッターは“諦めの悪い”6年生、副キャプテンのユウ。

第55話/野球の神様からの“ささやかな”プレゼント!
粘りに粘る。一体何球ファールにしただろうか…。

フルカウントから最後は“際どい”判定で見逃し三振でゲームセット。

結果は1対9で5回コールド負け。
なんの驚きもない“実力差通り”の結果。

フレンズの遠州大会は、目標であった“2日目進出”を果たせず終了。

やはり“普通”に野球をやったらフレンズは弱い。
もっともっと子供たちがノッて、“生きた声”が出るようにならなければ“奇跡”は起きない。

とはいえ、親が子供に掛ける声というのは非常に難しい。
言葉のチョイスを間違えば、ただプレッシャーを与えてしまうだけ。
逆に足を引っ張ってしまう結果にもなりかねない。

いかに“言葉の魔法”に掛けるか…。

「空を見ろ!」に続く第2弾。
もうしばらく考えてみようと思う。


試合後、顔見知りのブラッツの父兄に挨拶を済ませバスへと戻ると、ブラッツの選手数名がフレンズのバスを取り囲んでいた。

一瞬、もめてるのか!?と思ったがそうではなかった。

お互い笑顔で手を振っている。

はっ!と思い、最後尾に目をやった。

バズの中でのコウタの“定位置”は最後尾の窓際。

立ち上がりコウタを見つけると、笑顔を浮かべ、途中うなずきながら、窓の外を見ている。
窓を隔てて、すぐ外には“シンちゃん”がいた!
シンちゃんが笑顔で、何からコウタに話しかけている。
コウタに会いにきてくれたのだ。

ふたりは幼少時代の数年間、同じ賃貸マンションに住んでいた。
シンちゃんは1階の角部屋、コウタは2階の反対側の角部屋。
わすか12世帯しかいないマンションでふたりは出会っていた。

当時のコウタは人見知りが激しく、ほんの限られた子としか遊べなかった。
シンちゃんはその数少ない友達のひとり。
ほんのわずかな間だが、ふたりは“間違いなく”友達だった。
その後、シンちゃんは初生へ、程なくしてコウタは三ヶ日へと移り住み、新しい仲間と出会い、別々の道を歩んできた。

練習試合で一度顔を合わせているが、その時にはお互い会話を交わしてはいない。

この日も、フレンズが初戦で負けていれば再会することがなかったふたり。

野球というスポーツに一生懸命に取り組んできたふたりに対する、野球の神様からのささやかなプレゼント。
笑顔で何やら会話をするふたりを見ているとホントに「野球の神様っているのかな」と思えてしまう程の、奇跡的な再会。

バスはゆっくりと動き出した。

コウタは振り返ってずっと手を振っている。
徐々に小さくなっていくシンちゃんもずっと手を振っている。

ふたりにしか見えない“絆”が芽生えはじめているのかもしれない。

負けはしたが、何とも言えない“心地良い”気持ちに包まれた一日。

バスの窓からは“やさしい”風が注ぎ込んでいる。


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あとがき
あとがき(2012-04-26 21:04)

この記事へのコメント
う~ん、結果は残念でしたね。
でも、コウタ君はお友達との再会、絆・・・いいプレゼントだったですね。

たら、ればを言い出すとキリがないですが、もし六郷が勝っていたら・・
モチベーションも変わったかもしれないですね。

うちはz旗予選の日、負の連鎖のようにみんながプレッシャーで
ガチガチ・・に見えました。
それに比べ、遠州大会はのびのびしていたと思います。

つい、県大会!って言ってしまう悪い母親ですが、残り少ない少年野球を
楽しんでやってほしいなと思います。
Posted by みかりん at 2011年07月12日 15:11
みかりんさん

ホント子供の気持ちって難しいですね。

フレンズはとにかく弱く、10年以上も県大会に出場できていません。
ここ10年は、県大会に近づいてもいないようです。

なので、どうしていいのかわからないのが現状です。

ただ、JAの引佐戦、Z旗のジュニアファイターズ戦、磐田大会の六郷戦を観ると、“気持ち”で戦うチームに思えて仕方ありません。

遠州大会敗退後、6年生の親御さんと話したのですが、「試合前に一言だけ言おうか?」という話になりました。
私が言い出したのですが、実際のところ、まだ悩んでいます。
みかりんさんがおっしゃる通り、過度にプレッシャーをかけてしまう恐れがあるからです。

遠州大会の際、5年生の子に「練習試合なのにお金払うの?」と聞かれました。ビックリしました。でも少し理解できました。子供たちはバスに乗せられ、グランドに行き、知らないチームと試合をして帰ってくるだけ。練習試合だろうが、公式戦だろうが、“負け癖”が付いている、ウチのようなチームの子にとっては関係ないんです。

もちろん、6年生は“今”何をしているか、理解しています。
それでも、人生において“どうしても負けてはいけない場面”がそんなにないことはまだ理解していないと思います。まだ次があると…。

その場面を理解して戦うのと、後で気付くことのとでは、どっちが彼らのためになるのか…。

Z会旗の予選、浜名湖支部の日程が決まりました。
7月17日の日曜日、ジュニア大会を行った後、Z会旗の予選を行うことになりました。5年生、4年生は遠州大会に続く“一日2試合”…。

とにかく悩んでいます…。

どうすることが彼らのためなのか…。
Posted by ワカさんワカさん at 2011年07月12日 16:31
『楽しんでいこうぜ』
親も子もそれが一番!
野球の神に愛されるチーム・・・。
それは野球を楽しむ事の出来るチームだと思います。
最近の甲子園出場チームのスローガンに『常笑』が増えているそうです。
僕達の時代では考えられませんが・・・。
とにかくいつもどおり。
フレンズの野球で頑張って下さい。
Posted by とら・とら at 2011年07月12日 22:09
とら・とらさん

確かにおっしゃる通り!

いつも通り、ですね!

“常勝”ではなく“常笑”ですか。
いいスローガンですね。

今回は“楽しむ”ことをテーマにいってみようかな。
Posted by ワカさん at 2011年07月13日 11:34
日曜日はお疲れさまでした。

進之介、フレンズと再対戦できることをとてもとても楽しみにしていました。

暑かったせいか過度に興奮していたせいか分かりませんが、試合前・試合途中・・・と三度も鼻血を出してました(笑)

帰りの車で~バスに乗ってるこうたくんに手を振ったよ。ずっとずっと手を振ったよ。と嬉しそうに話してくれました。

いつかこうたくんとキャッチボールが出来たらいいな・・・。と。

またの再会を楽しみにしてますね。
Posted by シンノスケ母 at 2011年07月13日 14:39
シンノスケ母さん

この出会いは“奇跡”的な出来事。
子供たちにとって、ホントに素敵な、それは素敵な思い出になったように思います。

これもすべては野球のおかげ。

いよいよ今週末、Z会旗の浜名湖支部予選の準決勝が行われることになりました。
支部のチーム数が15ある浜名湖支部は2チームが県大会に出場できます。

そんなに強くないフレンズにあって、コウタたちは“谷間世代”と呼ばれていました。要するに、全く期待されていない世代だったんです。

そんな彼らがいつくもの“奇跡”を起こし、“あとひとつ”までやってきました。

もう一度だけ“奇跡”を!

できれば県大会で会いたいですね!

またお会いできる日を楽しみにしています。
Posted by ワカさんワカさん at 2011年07月13日 15:25
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