5月5日、新居球場。
JA杯最終日。
準決勝、決勝の3試合が行われ、決勝に進出した2チームが県大会へ出場できる。
対戦カードは、三ヶ日フレンズ対引佐ドリームジュニア、細江対三ヶ日ジュニアファイターズ。
フレンズ以外の3チームは県大会の常連と言える強豪チーム。要はフレンズだけ格下。三ヶ日大会のように大敗も考えられる。
さらに今年の引佐は強く、特にエースは球威、制球ともに抜群。
このチームになって2度対戦したが、ほとんど得点を奪えていないどころか、ほとんどヒットすら打てていない。
試合はフレンズが先行でプレイボール。
この日も引佐のエースは球威、制球とも申し分ない。
あっという間にツーアウト。
バッターボックスには3番のエイスケ。

いつになく気合十分!するといきなりヒット!
後続は倒れたが、いつもほとんど打てない引佐のエースからいきなりヒットが出た。
フレンズのマウンドには“エース”のサトシ。

前回の対戦となった練習試合では初回に四球やエラーが重なりまくりいきなりの5失点。とにかく問題はチームとしての立ち上がり。さらに大会初戦の白須賀戦では、制球が定まらずマウンドで涙を見せたサトシ。今回は果たして…。
キャッチャーのエイスケの掛け声で1回の裏、引佐の攻撃が始まる。
「締まってくぞ~」
「オ~」
するとマウンド上に異変が!

サトシが空を見ている!先日のお願いを覚えていたのだ!
おとといの試合後、6年生たちに「試合前にみんなで空を見ろ」とお願いをしていた。とにかくチームとして立ち上がりに難がある。落ち着くため、みんなの心をひとつにするために「空を見ろ」とお願いしたのだ。その時は全く聞いていないと思ったのだが、マウンドではサトシが空を見ている。ふと外野に目をやるとコウタが、ユウが空を見ている。
まだみんなではなかったが3人は空を見ていた。
身震いするような感動を覚えるとともに、やってくれそうな予感がした。
ワンアウト後、引佐の2番がポテンヒットで出塁。すぐさま盗塁しワンアウト2塁。その後のバッターにも1、2塁間を破られ、ワンアウトランナー1、3塁。いきなりのピンチ。
空を見上げるサトシ。
「ピンチの時も空を見上げろ」だ。
2球目、スクイズ。
しかしサトシの球威に押され小フライ。
コウスケが捕ってツーアウト。
その後のバッターはセンターフライでチェンジ。
いきなりのピンチを凌いだ。
笑顔でベンチに戻るサトシ。
突然、足を止め後ろを振り返る。
外野からベンチへ戻るユウとコウタを待ち、それぞれとグラブでハイタッチ!
※こんな光景もはじめて見た!
その後は両エースの好投が光り投手戦へ。

4回にはツーアウトからコウヘイが相手のエラーで出塁。すぐさま盗塁を決め、ツーアウトながらランナー2塁。
このチャンスにバッターはコウタ。

鋭いライナーがセンターを襲うが、センターが猛ダッシュで突っ込み、地面スレスレでキャッチするファインプレー。
チャンスが活かせない…。
4回裏までお互い“0”が並ぶ。
試合が動いたのは5回。
先制したのはフレンズ!
引佐のエースを攻め立て、ワンアウト2、3塁。
バッターボックスにはコウスケ。

パンチ力があり、一発も期待できる“スーパー4年生”。
ヒットの期待がかかったが、打球はボテボテのサードゴロ。
サードが一塁へ送球する間に、この大会からチームに合流したキョウスケが好走塁を見せホームイン。
※キョウスケは4年生だった去年からレギュラーで試合に出ていた選手。今年のチームではキャッチャーを務めていたが、肘痛で3ヶ月ぶりくらいの出場。この日は馴れないライトを守った。
おかえりキョウスケ!
待望の先制点がフレンズに入った。
その後も追加点のチャンスがあったが、あと一歩の所で得点ならず。
その裏の引佐の攻撃。
ツーアウトからヒットを許した後、エラーが絡み2、3塁のピンチ。
サトシは空を見上げ、このピンチを防ぐ。
あと2回凌げば県大会!
1対0で迎えた6回裏。
先頭打者が右中間を破るツーベースで出塁。
ここは当然送りバント。
これを処理したサトシが一塁へ“まさか”の悪送球。
ランナーがひとり帰り同点。
しかもノーアウト3塁。
空を見上げるサトシ。
コウタが、ユウが、コウヘイが、エイスケが、キョウタロウが、ヒロキが、キョウスケが、コウスケが、そしてベンチにいるみんなが大きな声でサトシを励ます!
今大会の初戦、マウンド上で泣いたサトシの姿はそこにはない!
少しだけ高くなったマウンドの上で、堂々と相手を見下ろし、チームメイトを信じ、マウンドに立つサトシの姿があった!
もはやサトシは孤独ではない!
力強く腕を振り、エイスケの構えるキャッチャーミット目掛けてボールを投込む!
初球ボールの後の2球目。
スクイズ!
1対2、引佐が逆転。
フレンズの最終回の攻撃は8番から。
8、9番が倒れバッターボックスにはユウ。

ツーアウトだが、ユウが出塁すれば“何か”が変わる。その目は試合を全く諦めていない。
三ヶ日大会の金谷戦。大量得点を奪われてからというもの、チームは試合を諦めた。声はなくなり、ただ審判のコールだけがグランドに鳴り響いた。しかしこの日は違う。誰も諦めていない!ベンチも、そしてバッターボックスのユウも!
こんな雰囲気のフレンズを観たことがなかった。
今年のチームはもちろん、強かった去年も、その前の年も。
自分が知る限り、史上最高に雰囲気がいいチーム!
だからこそこの雰囲気をまだまだ感じていたい!
この子たちの試合をもっと観ていたい!
試合の中で成長していくこの子たちの姿を!
しかし無常にも試合は終わる…。
ユウが強振した打球は力なくセカンドの頭上へ。
ゲームセット!
1対2で引佐ドリームジュニアの勝利。
試合は終わった…。

試合後、監督の話を聞く選手たち。キョウタロウ、コウスケ、さらには今まで一度も泣いたことがないエイスケまでもが泣いていた。悔しくて悔しくて泣いていた。
しかしコウタの目には涙がない。ないというよりも耐えていた。目を真っ赤にしながら耐えていた。
涙は感情。感情を出すと人は忘れる。
耐えるからこそ、その時の感情がずっと残る。
さらに「ダイヤのエース」によれば、キャプテンは人前で泣いてはいけないらしい。
今日の悔しさを持って、これからもっと練習すればいい。
がんばれコウタ!
これからも応援するよ!
がんばれ6年生!
ホントにいいチームになったね!
これこそ追い求めていた今年のチーム、いやフレンズの色!
足が遅い、力がない、ボールが上手く投げられない、野球が上手くない。
そんな後輩たちの見本が君たちです。
“谷間”と言われ続けたコウタ世代。
それでもこの世代が最も県大会に近づいた!
チームワークという武器を持って!
ちなみに新居球場で行われた第2試合、細江対三ヶ日ジュニアファイターズの一戦は、細江が7対5で勝利。
この結果、細江と引佐が県大会へ出場することが決まりました。
両チームとも、支部の代表として思い切ってプレーしてきてください!