第13話/善戦から得るもの!

程なくして対戦相手“三ヶ日ジュニアファイターズ”が到着。
最初の挨拶から“強豪”ムード満載だ。

試合開始直前。コーチがみんなを集めて“気合”を入れる。

第13話/善戦から得るもの!
久しぶりに観るコウタのユニフォーム姿。ドクターヘリから丁度6週間。コウタがグランドに帰ってきた!

プレイボール。

ファイターズの攻撃で試合が始まった。

フレンズの先発は“エース”のサトシ。野球センスは“No.1”で、(体重を活かした)剛球とホームランも打てる長打力が持ち味だ。
守備は随分変わっていた。キャッチャーには本来セカンドのユウが入り、セカンドには本来キャッチャーのキョウスケ、センターには本来ライトのコウセイ(4年生)、ライトには初スタメンとなるタツヤ(4年生)が入り、ファーストには本来センターのコウヘイが入った。どうやらキョウスケは肩を痛めてキャッチャーができないらしく、そのために守備位置を“さらに”変更せざるを得なかったようだ。普段練習していないポジションを守る選手が多いため、どうしても守備に不安が残る。

初回はサトシの剛球が唸りを上げてファイターズに襲い掛かる。全くタイミングがあっていない。あっという間に追い込むと、最後は渾身のストレートを投込む。バッターはなんとかバットに当てたが“絵に描いたような”ボテボテ。
「よしワンアウト!」と思った瞬間“まさか”のエラー。いきなりピンチを向かえる。
“投げてよし、守ってよし、打ってよし”のサトシだが、ひとつだけ欠点がある。メンタルの弱さだ。エラーなどがあると我を失い、フォアボールを連発して自滅するケースが多かった。もちろんバッティングにもその影響が“モロ”に出る。

しかしこの日のサトシは“違った”。

ロージンに手をやり、エラーした選手に声をかけ、何事もなかったかのように投げ始めた。淡々と、冷静さを失わずに投げ始めた。

満塁まで攻め込まれたが、サトシの好投が光り、この回を無失点で切り抜けた。

1回裏、フレンズの攻撃。

コウタは3塁コーチに。
3塁コーチは“大事”な3塁ランナーに指示を送るのが役割。得点が入るかどうかの瀬戸際を受け持つ。

1番の“韋駄天”キョウタロウが出塁すると、すかさず盗塁。
チャンスをつくると、相手のミスに乗じてフレンズが先制。1-0とした。

2回はファイターズが足を絡めて追いつく。1-1。

3回表ファイターズの攻撃。“またもや”フレンズにエラーが出る。何でもないサードゴロ。これを捕ってファーストへ“いい”送球。これをファーストのコウヘイが落球。普段練習したことがないファーストを守るコウヘイからは緊張感が“バシバシ”伝わってくる。もはや“ガチガチ”だ。

「みんな固いぞ~!もっと楽しめ~!」

ベンチから大きな激が飛ぶ。
コウタだ。

コーチ(この日は監督が不在のためコーチが指揮)の隣に座り、大きな声援を送っていた。コーチは試合中でもミスがあると怒鳴ることが多いのだが、この日は黙って戦況を観ていた。コーチが言おうとすることをコウタが叫ぶからだ。コウタが守備位置の指示を叫ぶと、選手は大声で返事をして移動した。コウタが声を出すように促すと、みんな一斉に大声を出した。チームのみんなはコウタを受け入れてくれていた。いや待っていたのかもしれない。

満塁。ピンチは続くがサトシが踏ん張り2アウトまでこぎつけた。
しかし、ここで再びエラー。ファイターズが勝ち越しに成功する。1-2。
続くバッターはボテボテの当たりが三遊間を抜けレフト前へ。これを猛烈に突っ込んだエイスケが“まさか”の後逸。ランナーが次々と帰り、1-5。ファイターズのリードが広がった。

本来の守備位置ではないために、いつもよりエラーが多い。
それでもサトシは淡々と表情を変えずにキャッチャーミット目掛けてボールを投込む。

3回裏。サトシのバットが火を噴く。ストレートを真芯で捕らえた打球は、一直線にサードの頭を越えレフト戦を破った。このサトシのツーベースヒットを足がかりに1点を返す。

3回を終わって2-5。

この後は緊迫した投手戦。
エラーがあろうが、フォアボールを出そうが、サトシは淡々と表情を変えずにボールを投込む。周りの選手に声を掛けながら、ロージンを触って間をとりながら、淡々と表情を掛けずにボールをユウの構えるキャッチャーミットへ投込む。もはや“気が弱い”サトシの面影はどこにもない。風格さえ漂っていた。
思えば、このチームが始動した時はバッテリーが下級生だった。コウタのいる5年生は“谷間世代”と呼ばれていた。主要なポジションは下級生が占め、空いたところにコウタたちが入るようなチームだった。それが今日は、5年生のサトシが投げ、5年生のユウが受けている。しかも“超”強豪のファイターズと好ゲームを展開している。

涙が溢れてきた。

今の5年生は“カタワ”の集まりだ。
サトシは、肩が強く、バッティングもいいが、メンタルが弱く、とにかく足が遅い。ユウは、走攻守をそつなくこなし、気持ちも強いが、肩が弱い。コウヘイは、肩が強く、パワーもあるが、メンタルがメチャクチャ弱い。エイスケは足が速いが、守備とバッティングはさっぱり。コウタに至っては“何もない”。あるのは“根性”だけだ。

そんな5年生がファイターズに勝つために“一生懸命”戦っている。下級生を従えて“全力で”戦っている。

そんなことを思ったら、溢れる涙を止めることができなかった。

その後、1点を追加され2-6の4点差で最終回へ。

最終回裏、フレンズの攻撃は下位打線から。フレンズの欠点は下位打線の迫力不足。この日もチャンスすらつくれていない。しかしこの時ばかりは違った。ボールに喰らいつき、粘り、フォアボールを選び出塁。「次に繋ごう」という気持ちが、観ている方にまで伝わってきた。上位打線へ繋りチャンスはさらに広がる。2アウトながら満塁。ネクストバッターサークルにはサトシ。なんとかサトシまで繋ぎ、一発が出れば“サヨナラ”だ。バックネット裏にいたワタシがサトシに目をやると、サトシと目が合った。サトシは力強くうなづくと、バッターボックスへと向かった。押し出しで3-6となったのだ。もはやサトシからはオーラが出ている。初球。思い切り引っ張った“強烈”なアタリは3塁線の左へ抜けてファール。これでピッチャーはびびったのか、ストライクが入らなくなった。サトシもフォアボールで3-6。続くユウもフォアボールで4-6。なおも満塁。サトシの“強烈”なファール以降、ファイターズのピッチャーは、ストライクが入らなくなってしまった。

さらに押し出しで5-6。一点差。

バッターボックスには“5年生”のエイスケ。
フォアボールでも同点。一打出れば“逆転サヨナラ”の場面だ。

緊張感は最高潮。

初球、頭付近に球がきてボール。

2球目、“ド”真ん中のストライク。

緊張感で体が動かない。

3球目、大きく外れてボール。

カウントはワンストライク、ツーボール。

4球目、これも大きく外れてボール。

ワンストライク、スリーボール。

次がボールなら同点だ!

ピッチャーの制球は定まっていない。

5球目、高めの“ボール”球に手が出てファール。

カウントはツー・スリー。

運命の6球目…

「ストライ~ク、バッターアウト!ゲームセット!」

エイスケは手が出なかった…

5-6でフレンズは負けた…

スポーツは負けて得ることがある、とよく聞くが、勝った方が得ることが多いに決まってる。負けるなら大敗。接戦は“必ず”勝たなければならない。“善戦”ではほとんどなにも得ることができない。

試合後、エイスケが泣いていた。人目もはばからず泣いていた。
エイスケはこれまで、試合に負けて泣いたことがない。他の5年生みんなが悔しくて泣いていても、エイスケだけは泣かなかった。どこか“のほの~ん”としていた。

しかし、この日は泣いた。初めて“ホントに”悔しいと思えたのだろう。目を真っ赤にして泣いている。
この悔しい気持ちは、スポーツをしている人しか味わえない。まだ小学5年生。野球なんかせずに遊びたいだろう。でも、遊びしかしていない子は決して味わうことのできない感情だ。こういった感情の爆発が健全な心を育むのだと思う。

そう思えば“善戦”だったこの試合、得たものは“とてつもなく”大きい。


つづく



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