第10話/走れ!コウタ!

9月18日。

両腕のギブスが外れた最初の週末。

心配してくれていた、嫁さんの実家の両親にコウタの現状を見せるため、金曜日の夜から泊まりに行っていた。午後に帰ってくると、コウタは“リハビリ”のゲームに勤しむ。コッチはこっちでなんとな~くテレビを眺めながらだらだらと過ごす。何気ない週末の光景だ。

4時30分頃。状況が激変する。

「よし!走りに行くから自転車で着いてきて!」

「お、おう」
(ギブスは取れたが、月内は“絶対安静”のため、こけることは許されない。そのため、自転車で誘導する必要がある)

突然走ると言い出した。
ちょっとビックリしたが、それでも裏の広場で“少~し”走って終わりだと思っていたので、“歩いて”広場へと向かった。

そこでは、走り方の矯正やダッシュを数回行った。これにはバレーを始めた4年生の妹も付き合ったのだが、すぐに飽きて広場に落ちている“BB弾”を拾い集めだした。コウタもつられダッシュは終了。ある程度、予想できた展開だった。

程なくすると、コウタが再び口を開いた。

「もっと長い距離を走りたい!」

「ん!?じゃあこの辺をグルッと回ろうか?」

自転車を取りに行きわたしが先頭を走り、その後を走って着いて来ることになった。これにもバレーを始めた妹が参加。

「よし行こう!」

娘の“ピンク”の自転車にまたがり二人を誘導する。

家を出て北へ進むとお寺がある。そこを左折し牛小屋を回って、家の前の坂を上ってゴール。1周8分くらいのコースを想定して進む。

「もっとスピード上げて!」

コウタの声でギアを“3”から“5”にアップ。コウタの走るペースが“グン”と上がる。

「ちょっと早い!」

遠くから妹のミライの叫び声が聞こえる。

スタートから“わずか”1分。すでに60m以上差がついている。

コウタがこけないように誘導しているため、ミライを“ほぼ”無視し、コウタのペースで進行。

最終的には1分近くも差が付いた。

「もう1周行くか!」

(えっ!?マジっすか!?)

ちょっと驚いた。イヤイヤ走っていると思っていた。しかしコウタは“本気”で走りたいと思ったいたのだ。コウタの学年は“サッカーチーム”が早い。いつでも、短距離も長距離も、上位はサッカーチームが独占していた。そんな中、つい先日“野球チーム”のユウが牙城を崩した。ユウは毎日走っていた。

走るという努力は“嘘”をつかない!

「よし行こう!」

再びミライもついてきた。2周目は飽きさせないようにコースを変更。さらに遠い“お墓”の方へと向かう。コウタは再びハイペースで走る。今回はミライも“ガンバッて”ついていく。登り坂では自転車が置いて行かれるケースが目立ってきた。二人のペースは結構速い。子供たちは途中で人とすれ違うと「こんにちは」と二人して声を掛けていた。これもスポーツをしているお陰なのかもしれない。親としては“ちょっと”うれしかった!

この日はダッシュを含めると30分以上走ったことになる。

9月19日。

この日は久しぶりに家族で遊園地(パルパル)へ。子供たちは大はしゃぎで色々なアトラクションにチャレンジしていた。日曜日はいつも野球の練習があったため、家族でこうして出掛けるのは1年ぶり。“子供が子供らしく”感じられた。たまにはこういうのも悪くない。

帰宅後、コウタが再び、

「よし、じゃあ走りにいくか!」

「マジっすか?」

昨日と同じコースを走った。さんざん遊園地で遊んできたというのに、走った。

息を荒げながら、手を抜かず、一生懸命走っていた。

親が子供に対してできることは、一生懸命物事に取り組む子供をサポートすることぐらいしかない。5年生にもなると“すでに”自我が芽生えているように思う。がんばる子供に負けないように、親は親で“しっかりした”背中を見せることが大事だ。コウタを見て改めてそう思う。

汗を拭くコウタが眩しく見えた。

第10話/走れ!コウタ!
もう“パルパル”が似合わなくなってきました。来月から練習に参加できるといいのですが…


つづく



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