ちょうどこの頃、他コートの試合が終わり、三ヶ日中と大平中の試合へと人がゾロゾロと集まり出してきた。
気付けは、ほとんどの席が観客で埋められていた。
客観的に観戦した場合、人は皆“判官贔屓”になり、なんとなく弱者を応援する。
“4季連続”での東海大会出場を目指す三ヶ日中と、“初”の東海大会出場を目指す大平中では、
観客がどちらのチームを応援するかは明らか。
三ヶ日中はより劣勢に立たされることになった…。
コートチェンジ後の最初のプレーで、
三ヶ日中が相手エースのアタックをブロックで止めると、会場が沸いた。
悲鳴なのか、歓声なのかは分からないが、確かに“ワッ”となった。
三ヶ日中が粘り、相手のミスを誘うと、再び会場が沸いた。
会場は三ヶ日中を応援してくれていた。
大きく開いた得点差、そしてなにより“たった6人”しかいない、というチーム事情が、観客心理を揺さぶったのだろうか。
もちろん、これは気のせいかもしれない。
だがその時は、会場全体が三ヶ日中を応援してくれているような気がした。
すると、ここで遂にエースが目覚めた。
連続ポイントを挙げ、得点差をみるみる縮める。
得点を奪うたびに、チーム全体で「よっしゃー」と叫び、両腕を高く広げた。
体の小さな彼女たちだが、段々と大きく見え始めてきた。
三ヶ日中女子バレー部としての“オーラ”が、ゆっくりと輝きを取り戻し始めていた。
そして17対17。
遂に追いついた。
20対19。
エースがブロックアウトを奪い逆転。
三ヶ日中のサーブミスで、
20対20。
エースのアタックが決まり、
21対20。
エースがブロックアウトをとり、
22対20。
相手エースのアタックが決まり、
22対21。
サーブで崩され、チャンスボールを相手エースに決められ、
22対22。
相手エースにストレートをぶち抜かれ、
22対23。
三ヶ日中のカットが乱れたが、なんとかフォローし、相手のミスを誘い、
23対23。
あと2点を先に取ったチームが『東海大会』。
三ヶ日中のエースがサーブのセットに入った。
彼女たちは大きな十字架を背負わされてきた。
彼女たちが三ヶ日中女子バレー部に入部した時、チームは東海大会の常連チームになっていた。
すでに卒業していた先輩も、当時の3年生も『東海大会』に出場していた。
「練習が厳しい」と噂が町中に知れ渡っていた。
その噂からか、小学校の時にバレーをやっていても、中学では女子バレー部を敬遠する子が続出。
2年生で女子バレー部に入ったのは“たった”4人。
1年生は“たった”2人しか入らなかった。
去年の先輩たちも、当たり前のように『東海大会』へ進出した。
彼女たちが入部したその時から、出会った先輩全てが『東海大会』へ行っていたのだ。
ここ数年で最も能力が低い彼女たちも、“当たり前のように”『東海大会』を目指した。
“たった”6人。
もっと低い目標でもよかったはず。
だが彼女たちは、重い十字架を背負うことを選んだ。
だからこそ、厳しい練習にも、高い要求にも、彼女たちは必死になって応えようとした。
ただただ目の前の一球のために、ガムシャラに食らいついた。
その姿は、「私たちも東海大会に行かないとヤバイ…」。
ある種の呪縛にかかっているかのようだった。
たった数ヶ月だが、その姿を間近で見させてもらうことができた。
そこで思ったのは、彼女たちには“価値がある”ということ。
チームの歴史と伝統を受け入れ、目標に向かいひたむきに取り組む姿勢、学んだことを実践しようとする意欲は、
何にも代えがたい彼女たちの“価値”だ。
例え呪縛にかかっていようとも。
バレーボールは下手かもしれない。
だが、彼女たちは東海大会に行く“価値”があると確信していた。
この日、プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、百本以上のアタックを打ち続けたエースの右手から放たれたボールは、
勢いにのったまま相手コートへ突き刺さった。
24対23。
応援席を振り返ると、そこには校長先生、教頭先生などの先生方、先輩の父兄の皆さん、さらには何十年も前に卒業したであろう、三ヶ日中女子バレー部のOGの皆さん、ホントに多くの方々が、吉田町まで応援に駆けつけてくれていた。
この日会場へ応援に来てくれた全ての人が、彼女たちに力と勇気を与えて続けてくれていた。
そして、この試合最後となるボールが、エースの右手から放たれる。
ゆっくりと弧を描いたそのボールは、コートに吸い込まれるかのように、誰もいない場所へと落ちた。
25対23!
彼女たちのこの試合最後の「よっしゃー」が響き渡る。
ベンチの先生は飛び跳ねると、すぐさま瞼を覆った。
彼女たちは噴き出す涙もそそままに、抱き合っていた。
我々応援席も歓喜の涙に包まれていた。
そこにいる人全てが涙していた。
「努力は報われる」という言葉があるが、
ほとんどの場合、これは間違い。
努力は報われないことの方が多い。
大人になればなるほど、そのことを理解し始め、終いには努力をしなくなる。
そんな中、いつまでも努力できる人もいる。
それは「努力は報われる」ことを経験した人。
努力の先に成果があることを知っている人だ。
さまざまな事柄で経験できるだろうが、
相手があるスポーツでは事の他、難しいように思う。
だが彼女たちは経験した。
「努力は報われる」ということを。
この先の人生において、大きな肥しになるであろう経験を、
厳しいスポーツの中で掴んでくれた。
この先どんな困難があろうと、
この日の、この試合を思い出して欲しい。
そうすれば進むべき道は必ず見つかる。
内容が伴わず、ただ気持ちだけで戦ったこの試合こそが、“帰るべき場所”なのだ。
こうして三ヶ日中学校女子バレー部は“4季連続”の『東海大会』出場を果たした。