10月23日。
この日は「選抜引佐大会」。
フレンズバスが会場に到着すると、丁度その横を、浜松ブラッツのメンバーが通過した。
すれ違いざまに、シンちゃんを発見したコウタが、シンちゃんと軽く手を合わせた。
何気なくそんなことをする二人を見て、“なんか良い日になりそうだな”なんて一人で思っていたのだが…。

試合前は、元気一杯!!
天候が不安視されたが、無事、開幕することができた。
フレンズは1回戦で、天竜支部の「竜川ヤングス」と対戦。
当然、全くの未知数。
果たしてどんな試合になるのか…。
試合は竜川ヤングスが先攻でプレイボール。
フレンズの先発は“もちろん”サトシ。
最近のピッチングを見ていると“凄いこと”をやりそうな雰囲気があるが、試合前にサトシが発した言葉が気になってもいた。
「なんか、思ってる程、ボールがいかない…」
慌ててホームをチェックするが、悪いところはない。
それにもかかわらず、サトシの感覚と、投じられたボールにはギャップがあったようだ…。
不安の中、マウンドに上がる…。
そんな不安をよそに、序盤は“怪投”を見せ付ける!
1回ツーアウトから“7者連続三振”!!
沸くベンチと応援席!!
しかし、サトシは納得がいかないのか、調子が悪いのか、マウンドで何度も首をひねっている。
一方、フレンズの攻撃はというと、“全く”精彩がない。
いうなれば“淡白”そのもの。
竜川ヤングスのピッチャーが良かったのもあるが、“全く”工夫がない…。
完全に“受けてたって”いる。
まさに“上から目線”…。
果たして、フレンズはいつからそんなチームになったのか…。
その原因はキャプテンにあった。
いつも通り声は出ているものの、“勝つため”の意思が全く感じられない。
要は、“必死さ”が足りないのだ。
フレンズのキャプテンは、決して“諦めない”チームの象徴であったはず。
ヘタなりに、懸命にプレーする姿を見て、チームが奮い立ち、必死にボールに食らいつく姿を見て、チームは数々の逆転劇を見せてきたはず…。
この日のフレンズのキャプテンは“普通”にプレーしていた。
1点を先制する、というよりも、チグハグなプレーで1点どまり…。
すぐさま追いつかれると、5回にはキャプテンの消極的なプレーで2点を奪われ、逆転を許す…。
完全に“負ける”展開…。
「タイムお願いします」
不穏な空気を変えようと、選手がタイムを取る…。

「タイム」を取ったのは、“なんと”5年生のキョウタロウ。ずっとレギュラーで出てくれたいた下級生が、不穏な空気をいち早く察し、タイムを取ったのだ。
選手がタイムを取るのは、“もはや”フレンズの恒例。選手が自ら考え、プレーするフレンズらしい瞬間なのだが、“それ”はいつでもコウタの役割だった。
それが、この日「タイム」を取ったのはキョウタロウ。
チームとしての成長を感じる一幕でもあるが、確実に“何か”がおかしいのだ…。
その雰囲気はチームに伝染…。

最近はずっと安定したプレーを見せていたコウヘイだが、この日はサトシの“ストライク”をポロポロ…。

めっぽう“勝負強い”はずのエイスケは、二打席連続の“見逃し”三振…。
さらに、チームを不安にさせる出来事が起こる…。
サトシが急に腕を振れなくなった…。
明らかに様子がおかしい…。
2点をリードされた5回裏…。
先頭のコウタがフォアボールを選ぶと、相手の好投手を攻め立て4点を奪い、逆転に成功。
5回が終わって5対3でフレンズがリード。
しかし、チームの雰囲気はよくないまま…。
6回表に1点を返され1点差。
6回裏には足を絡め“ダメ押し”となる2点を奪い試合を決め、7対4でフレンズが勝った…。
試合が終わると“すぐに”反省会…。
コウタ、そしてチームも最悪の出来…。
県大会以降、サトシの伸び方が“凄い”。
ひとりだけ、“遥か上”の次元でプレーしている。
そこには、コウタを必要としたサトシの姿はもうない。
“キングとナイト”の関係は、もう終わったのだ。
コウタは“それ”を感じたのかもしれない。
自分の“限界”とともに…。
何度も言うが、コウタは“ヘタ”。
しかし、それを充分すぎるほど補う“強い気持ち”と、圧倒的な“キャプテンシー”があったはず。
誤解を承知で言うが、コウタがいなければ、このチームの躍進はなかった。
“奇跡のチーム”とも言える、今年のフレンズの象徴は“間違いなく”コウタだった。
実際に活躍するのは、ユウであったり、サトシであったり、エイスケであったり、コウヘイであったり、キョウタロウであったり、コウスケであったりし、直接コウタが活躍することは“ほぼ”ない。
しかし、コウタの発する“勝つ意思”がチームに伝染し、数々の“奇跡”的な逆転劇を見せてきたのではないか。
先日、町内の別のチームの監督が、フレンズのコーチにこんな話をしているのを耳にした。
「今年のフレンズはキャプテンが本当にいいね。あんなキャプテンらしいキャプテン、なかなかいないね」
そんなことを言われたキャプテンの姿は、この日はどこにもなかった…。
確かに野球も“少し”は上手くなったかもしれない。
しかし、コウタに求められているのは、コウタの野球は、その身震いする程の“勝つための意思”。
コウタの少年野球は、まもなく終わる。
親としての願いはただひとつ。
「最後まで、最後まで自分の野球を貫いて欲しい」
試合後、追い討ちをかけるように、サトシの“肘痛”が判明…。
ただの筋肉痛の可能性もあるが、チーム方針としては“絶対”に無理をさせない。
となれば、来週は登板回避の可能性が高い。
完全なるサトシの“ワンマンチーム”となったフレンズ…。
コウタが“強い意志”を見せ、再び“チームとして”の輝きを取り戻せるか。
勝敗以上に大切な“何か”を取り戻せるかどうかはコウタに懸かっている。
再び、あの“身震いするほど”の試合を取り戻せるか…。
試合から戻り、片付けを終え家に帰ると、先に帰ったはずのコウタの姿がなかった。
帰るとすぐにグローブを持って、すぐ裏の広場へと出掛けたという。
ビール片手に様子を見にいくと、フレンズの下級生の子がバッティング練習をしていた。
コウタはその子が打つ球を拾っていた。
拾っていたというか、懸命にそのボールを追っていた。
ただただ夢中にボールを追っていた。
思えば、コウタの野球はこの広場から始まった。
初めてキャッチボールをしたのも、この広場。
初めてボールを打ったのもこの広場。
フライが捕れるようになったのも、ルールを覚えたのもこの広場だ。
私が子供の頃は近所の子たちがみんな集まり、ここで野球をするのが当たり前だったが、子供が減り、公民館となったこの広場は、近所のお宅の駐車場として使われることが多くなっていた。たまに覗いても、子供の姿はどこにもなかった。
しかし、3、4年前から、“再び”子供たちが集まり、野球をするようになった。その中心にいたのは、紛れもなく“コウタ”だった。
するといつしか停まっていた車もなくなっていた。
まさにこの広場は、コウタの野球の“原点”。
そんな場所で、懸命にボールを追っていた。
その姿は、まるで“何か”を取り戻そうとするかのように見えた。
「一言言わなければ…」
と思っていたのだが、このコウタの姿を見てヤメた。
きっと、自分でも感じているはず。
“何か”が薄れていることを…。
来週は土曜日が「引佐大会」の2回戦、日曜日は“最後”の支部チャンピオンを決める「秋季大会」が開幕する。