6月5日。
この日は“久しぶり”の一日練習。
来週からは「いわしん杯」、「Z旗杯」と大会が続く。
時間はない。
この日も“新”システムを試すことを中心に練習が組まれる。
レギュラーキャッチャーのキョウスケの怪我が8月までかかることが判明したため、キャッチャーを決めなくてはならないからだ。
これまで代わりを務めていたエイスケはキャッチングはいいものの、スローイングに難がある。
先週試されたキョウタロウはスローイングはメチャクチャいいものの、キャッチングに難がある。
加えてふたりともコーチングが上手くできない。
そこでこの日は新しい選手が試された。

コウヘイだ!
コウヘイはファーストを守る2番手ピッチャー。
新チームになったばかりの頃はサードを守っていたが、本年度からピッチャーの連投が禁止となったため、2試合目に登板するコウヘイが、比較的負担の軽いファーストへ移動になっていた。
とにかく“チーム一”とも言える身体能力と強肩が武器で、私的にはずっと前からキャッチャーをやって欲しかった選手。
「やっとまわってきたか」
というのが印象。
いわしん杯は初日は一試合のみ。Z旗杯はシードのため、これまた初日は一試合のみ。
日程に恵まれ、共に“エース”のサトシが投げられるため、2番手ピッチャーのコウヘイに登板機会はない。この間だけの暫定的な要素はあるが、とにかく数週間はコウヘイがマスクをかぶる様子だ。
コウヘイ効果は走塁練習時に表れた。

次から次へと、バシバシに盗塁を刺す!
さらに驚いたのは、大きな声で指示を出していたことだ。
今まではマウンドに一番近いファーストにいながら声を出すことは皆無。出していたのかもしれないが、ほとんど聞こえることはなかった。
それがこの日は大きな声で指示を出していた。ちょくちょくアウトカウントを間違えて指示したりしていたが、エイスケよりもキョウタロウよりも大きな声が出ていた。

その表情は常に明るく、伸び伸びと、そして懸命にプレーしているのが伝わってくる。
そしてファーストにはコウタが、レフトにはエイスケが入った。

久しぶりのファーストとなるコウタ。送球が逸れた球も懸命に体で止めていた。
フリーバッティングの際に
「ほう」
と思わされるシーンにも出くわした。
6年生から順番にバッティングゲージに入り、それ以外の子が守っているのだが、ボールがなかなか飛んでこないためか、守っている子たちには声がほとんどない。コーチに促されれると一瞬は声が戻るが、すぐに声がなくなる。
コウタのバッティングが終わり守備に付くと、コウタが大声でボールを呼んだ。すると、今まで声がなかった子たちが引っ張られるように声を出し始めた。誰に促されるわけでもないのに、みんながみんな、大声でボールを呼んでいた。
グランドが一気に活性化しはじめた。
“打てない、走れない、投げれない”コウタだが、チームにとっては欠かせない存在になっているような気がした。
JA杯以降、チーム力は下降の一途を辿っていたが、ここにきて上昇の雰囲気が出てきたように思う。
「コウヘイ、とにかく思い切ってやりな。多少コーチングが間違ってても大丈夫。コウタがすぐに大声で修正してくれるから、堂々とやりな」
「サトシ、マウンドで苦しくなったら横をみな。笑顔でサトシを励まそうとするコウタがそこにいるから。そしてマウンドで孤独を感じたら振り返ってみな。ユウやみんなが助けてくれるから」
JA杯で3歩進んだチームは、その後2歩下がった。
しかし、翌週に試合を控えた今週、また3歩進めたような気がする。
“3歩進んで2歩下がる”
成長とは、こんな感じでしていくものなのかもしれない。