12月12日。
この日は平山パワーズとの練習試合。
福田から浜っ子パワーズが招待されていた。
この試合が今年の最終戦。この試合後1月末まで対外試合は禁止。オフシーズンとなる。
フレンズは近年毎年招待されており、イベント的要素が強い。
昼にはパワーズの親御さんが美味しい豚汁をご馳走してくれる。この豚汁がとても美味しく、ここに来る楽しみのひとつになっている。
もうひとつの楽しみは“5年生”が活躍できるかどうか。
監督曰く、「新チームの試金石となる試合」とのことで、5年生が最上級生になってできるかどうかを首脳陣に試される試合、という位置づけだ。
結果が出れば最高だが、結果がでなくても“意欲”を見せることが不可欠となる。でなければすぐさまベンチ行きだ。
初戦は浜っ子パワーズと対戦。
5年生はサトシがファースト、ユウがレフト、コウヘイがセカンドでスタメン出場。コウタとエイスケはベンチスタートとなった。フレンズの攻撃時にはコウタが“いつも通り”3塁コーチに入り大声で指示を出している。1塁コーチにはエイスケが“いつも通り”入った。エイスケは指示が上手に出せずベンチからよく怒鳴られていたが、この日は違った。的確に大声で指示を出している。この試合に対する意気込みを感じた。
コウタは中盤からユウに変わってレフトへ入った。
この試合は取り立て見せ場もなくフレンズが圧勝。
5年生はアピールがほとんどできていない…。
昼食で美味しい豚汁をいただき、平山パワーズとの2戦目が始まる。
5年生のスタメンは、ユウがセカンド、コウヘイがセンター、エイスケがライト、コウタはレフトに入った。来年のエースが確定しているサトシはベンチスタート。来年を占う“追試”が始まった。
出場している5年生は確実に目つきが違う。

ベンチからのサインに注視するコウタ。
まず結果を出したのはユウ。ヒットを放つ。

最近のユウの出塁率は目を見張るものがある。
その後のコウタはボテボテのセカンドゴロ。結果が出ない。
次の打席、ランナー2塁からユウが再びヒットで出塁。初球に盗塁を決め、ノーアウトランナー2、3塁。
バッターはコウタ。当然スクイズも考えられる場面だ。しかしここは来年のことを考えるのであれば打たして欲しい。スクイズも非常に大事なプレーであることは理解している。実際、試合の勝ち負けがスクイズで決まることは多々ある。しかしこの場面、首脳陣が中心選手として期待してくれているのであれば打たすはず。
スクイズのサインは出なかった。

(カキーン!!)
快音を残した打球は一直線にセカンドの右をライナーで抜け右中間へ。
今まで見たことがないようなクリーンヒット!!
結果が出た!
後ほどコウタが得点しベンチへ戻ると、コーチがこの日一番大きな声で「ナイスバッティング!」とコウタに声を掛けていた。遠くに離れていた自分にも聞こえる大きな声だった。こんな大きな声は後にも先にもこの時だけ。コーチもコウタに打って欲しかったのだ。きっとこのコーチはコウタのがんばりを見てくれていた。怪我以降、6年生の試合に出ることが皆無だったコウタだが、このコーチは見ていてくれた。いや戻ってくるのを待っていたのかもしれない。コウタは本来いるべき場所へと戻ってきたのかもしれない。そう思うと胸が熱くなった。
続くバッターは5年生のエイスケ。
初球にコウタが盗塁し、ノーアウトランナー2、3塁。5年生だけで得点するチャンス。
ここではスクイズのサインが出る気がした。俊足のエイスケの持ち味はなんといっても“足”。足があるとなれば“バント”は有効な武器になる。首脳陣がエイスケに期待するところもそこだと思う。
2球目。
スクイズ!
ファールとなった。ストライクの球だったため一発で決めたかった。
次もサインはスクイズ。エイスケにはバントを武器にして欲しいという首脳陣の思いが詰まったサインだ。
(コツ!)
次は見事に決め、5年生3人で得点を挙げることができた。
その直後、相手がバント処理を誤り1塁へ悪送球。エイスケは猛スピードで2塁へと向かう。しかし、これは暴走。ボールの位置を確認せずに走りだしたため、完全なアウト。と思った瞬間、2塁へ投げられたボールをセカンドが取れず、ボールは外野を転々とする。その間にエイスケは一気にホームへと駆け込んだ。
暴走だったため褒められたプレーではないが、本人には自信になったように思う。少なくともスクイズと、足の速さを見せ付けることに成功したことは収穫だ。
この日のエイスケは違った。ライトゴロに仕留めることにも成功したし、背走するフライにもきっちり対応できていた。
エイスケは次の打席で“なんと”ランニングホームラン!

この日目覚めた感があるエイスケ。ランニングホームランでも足の速さを見せ付けてくれました!
エイスケもアピールに成功したのではないか。

コウヘイはノーヒットだったが、時折守備でいいところを見せた。5年生で“唯一”フル出場したのは期待の表れ。

サトシは終盤顔見世程度に、慣れないセンターで出場。大きな声でピッチャーを盛り上げました。
最終回、相手4番の強烈がライナーがレフト線を襲う。当たりからして抜ければホームラン。完全に抜けたと思った。
しかしその打球をコウタが体勢を崩しながらダイレクトでキャッチ!
(これには驚いた!)
すぐさま中継にボールを戻した。
(これにはもっと驚いた!!)
1塁にランナーがいたため、いつまでも寝っころがっている訳にはいかない。体勢を崩したままボールを投げたのだ。
試合はフレンズの圧勝だったが、感動が詰まった試合だった。
運動能力に長けた子が多い年代に挟まれた“谷間の世代”。実際、周りからこういった声はよく聞いた。自分が見てもそう思っていたのも事実。しかしその5年生がこの試合では“野球選手”としてきっちりプレーできた。一打席一打席大事にし、ひとつにボール集中してプレーできた。みんなで励ましあって試合することができた。勝利への“意欲”も充分感じ取ることができた。おまけに結果も出た。特に瀬戸際にいたコウタとエイスケに結果が出た。実に感動的で、実りのある試合だった。
試合後、新チームのキャプテンの発表があった。
選ばれたのはコウタ。
コウタは、サトシやユウのように野球が上手いわけではない。コウヘイのようにパワーがあるわけではない。エイスケのように足が速いわけではない。あるのは「仲間を思う」気持ちだけだ。その気持ちがあるからツライ顔をしている仲間には声を掛けられるし、後輩に対してもやさしくできる。試合中には一生懸命ピッチャーを勇気付けようとするし、エラーして落ち込んでいる子がいれば励ましたりする。こういった所を監督、コーチは見ていてくれたのかもしれない。コウタは指導者にも恵まれている。
いよいよ新チームが始動しはじめる。泣いても笑ってもあと1年。悔いのないよう思い切りやって欲しいと願うばかり。子供のがんばる姿をしっかり目に焼き付けたいと思う。