思考に気をつけなさい。
それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい。
それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい。
それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい。
それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい。
それはいつか運命になるから。
マザー・テレサ
いよいよ明日、支部の「一年生大会」が始まる。
それにともない、一年生に背番号が配られた。
コウタの希望はピッチャー、それもエース番号である「背番号1」だ。
入部以来、コウタはこの目標を言い続けてきた。
そしてそれは行動からも見てとれた。
時間を見付けては私を連れ出しピッチング練習。
フォームでおかしな所を指摘すると、真摯に耳を傾けた。
部活も一生懸命取り組んでいたようで、疲れ果てて、帰宅後すぐに寝てしまうことも頻繁にあった。
風呂上がりに、自分の姿が映る窓ガラスを見ながら、投球フォームのチェックを行うことは習慣となっていた。
足の上げ方、肘の出る角度を自分なりに確認していた。
とはいえ練習量は少ない部類に“明らか”に入る。
少ない分、「やるときに集中してやるように」と、言い続けた。
野球の技術はというと、一年生10人中10番目。
多分、本人もわかっている。
だから野球部に入ることに二の足を踏んだ。
自信がなかったのだ。
そんな子が目標を持ち、自分なりにだが、それに向かって努力を重ねた。
そして目標を目指す過程から“自信”を得ることができた。
ちっぽけな支部の大会。
その大会期間内だけの“暫定”の背番号。
ほとんどの子が気にも留めないような小さなちいさな出来事。
誰も気にとめないような出来事を、コウタは“ひとつめ”の目標とした。
ある晩、コウタに質問した。
「背番号1じゃなかったらどうする?」
「考えたことない!」
「じゃあ、背番号1の次の目標は?」
「そんなのとっくに決まってるよ!一年生大会優勝!」
考え方はあくまで“チームのため”の自分。
自分がいかにチームの中で戦力になり、勝利に近づくことができるか。
そのために設定した個人目標が“背番号1”だったのだ。
チーム内にも、コウタよりも凄いピッチャーがゴロゴロいる。
ただその子たちが投げるとなれば守備位置を大きく変更せざるをえなくなるため、“守るポジション”のないコウタが投げる方がバランス的にはいい。投球制限もあるため、いいピッチャーはできるだけとっておきたい。
「自分が先発できるようになればチーム力は大きく増す」と思っていたのだ。
家に帰ると、ユニフォームの背中に背番号が縫い付けてあった。
それはもっとも似つかわしくなく、たぶん最初で最後になるであろう、目標とした番号だった。