第43話/“意欲”の先にあるもの

5月14日。

この日は自主練習日。

フレンズの公式練習日は基本日曜日の午前中のみ。
土曜日は自主錬日で来たい子だけが来て練習をする。

数年前までは“上手くなりたい”と思っている10数人が来ていただけだったが、昨年頃からほとんどの子が参加するようになった。

とはいえ練習日は土曜日の午前中と日曜日の午前中のみ。極めて少ない。

「いかに意識を持って練習できるか」が鍵となる。

この日は外野の練習に立ち会うことにした。

というのも、外野の練習は基本ノックされたフライやゴロを捕り返すだけ。
内容は単調。そのため集中力が持続しにくい。

集中力が少しでも持続できるよう“ハッパ”を掛けようと立ち会うことにしたのだ。

「コーチがノックしてるんじゃないぞ!ファイターズのバッターが打ってると思って守らなきゃ!」

フレンズの外野はセンターがユウ、レフトがコウタ。このふたりは6年生だけあって上手い。しかし、問題はライトを守ることになる5年生。レギュラー候補は5年生のコウセイとタツヤ。フライは“結果”捕るのだが、実に危なっかしい。捕球体勢が悪いため、その後の送球に時間が掛かる。おまけに試合中にボーっとしていることも多い…。

「ちょっと捕り方を言おうかな」と思い、列に並ぶ二人に近づくと、

タツヤがブツブツ何やら独り言を言っている。
「今のはこうじゃなくて、こうだった…」。
捕球体勢の確認をしていた。

コウセイはというとユウとコウタの捕球を凝視して真似している。

遠巻きで見ると遊んでいるように見えるかもしれないが、間近で見る二人は一生懸命上手くなろうとしていた。

明らかに今までとは違う取り組み。もちろんベストではないが、“上手くなりたい”という雰囲気は充分伝わった。

言いかけた言葉を飲み込み、見守ることにした。

彼らも少しずつ成長しているのだ。


走塁練習(2塁への盗塁練習)の際にも、成長を感じる場面があった。

サトシとコウヘイの二人のピッチャーが交互に牽制を交えながら投球し、ランナーは代わる代わる盗塁を試みる練習で、サトシとコウヘイ、キャッチャー以外(この日はファーストとショートを親がやることに)はヘルメットをかぶり1塁へと向かう。

しかしこの日は“少し”違った。

コウタがグローブを持ったままコーチの元へと向かうと
「ボクも牽制の練習してもいいですか?」

一旦はランナーになることを指示したコーチだったが、すぐに思い直し牽制の練習をすることを許可した。

コウタは三ヶ日大会で救援に失敗してから試合(練習試合を含む)での登板がない。

“ピッチャー失格の烙印”を押されたわけだ。

一度失格とされるとなかなかチャンスは回ってこない。序列の一番最後に並び、再び順番が来るのを“ジッ”と待たなければならない。

それでもピッチャーをやりたくて始めた野球。
ファーストからレフトへのコンバートを受け入れたのもピッチャーをやるためだ。
球威がなかろうが、制球が悪かろうがそう簡単に諦められるものではない。

コウヘイほどの球威がすぐにつくわけはない。でも制球力は“まだ”なんとかなりそうだ。

実際、首脳陣からコウタが求めれれているのも“制球力”。
球威はなくとも制球力があれば試合をつくれる。

コウタが今年ピッチャーをやるためには“制球力”が最大のテーマ。

このことはコウタも知っている。

写真を見て、投球時に頭が傾いていることに気付くと真っ直ぐにしようとし(まだ傾いてますが…)、肘が下がっていることに気付くと肘をあげようとし(まだ下がっている時がありますが…)、リリースポイントが手前過ぎるともっと前で投げようとする(まだ手前すぎますが…)。

要は本人なりにコントロールが良くなるように意識している。

本人が意識している限り、親としてかける言葉は存在しない。

この日の“走塁練習”はコウタなりのアピールの場。

あくまで主役は“走者”。

それでもコウタにとってこの練習は「前よりはストライク入るようになりましたよ」とアピールする貴重な場面なのだ。

牽制を織り交ぜながら懸命にミットへ投げ込む。
ストライクゾーンを通過するように、集中して投げ込む。

ストライクに入るのはせいぜい2球に1球程度。
それでも以前に比べれば進歩している。

何気ない“ただの”自主錬。

しかも監督はいない。

となると、コウタは本当にアピールしたかったのだろうか?

よくよく考えれば「アピールしたい」なんて考えていなかったような気がする。

ただ「マウンドに上がりたい」という一念だけだったような気がする。

ピッチング練習もさせてもらえないコウタにとって、マウンドから投げられる数少ない機会。これを逃せば今度はいつマウンドに上がれるかわからない。

意欲の先にある“貪欲さ”。

それを感じたシーンだった。

きっとこれも成長なんだと思う。

第43話/“意欲”の先にあるもの
今度マウンドに上がれるのは果たしていつになるのか…。がんばれコウタ!


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あとがき(2012-04-26 21:04)

この記事へのコメント
練習日、割と少ないですね~。親の負担が少なそうです。
うちは基本、土曜半日日曜が一日、木曜ナイターです。
日曜なんて、普通の練習日でもおにぎり持っていって親も
グランドでランチタイム(笑)

それでも、今年1年しかないと思うといろいろ気合が入ります。

がんばりましょう♪
Posted by みかりん at 2011年05月19日 06:10
とにかく、今年“燃え尽きて欲しい”と願っています。

燃え尽きればまた新たな目標が見えてくるはず。

先を見るのではく、今を目一杯生きる!

「もう数ヶ月あればすごくいいチームになるのに…」
なんてことには絶対なってほしくないです。

とはいえ、もう少しやってくれても…なんて思ったりもしますが…。
Posted by ワカさんワカさん at 2011年05月20日 02:35
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