早いもので、コウタがフレンズを卒団して1ヶ月以上が経過した。
卒団してからのコウタは、これまでの慌ただしい週末を取り戻すかのように、ダラダラと週末を過ごしていた。
天気が良ければ、サトシと一緒にフレンズの練習を手伝いに行くこともあったが、基本的には遅く起き、時には午後までパジャマのままでいることも多々あった。
私はというと、週末早起きする癖が抜けず、週末の度に明け方に目が覚めてしまっていた。
今思えば、夢のような一年だった。
中学に入ったコウタは、全くグローブを触ることがない。
以前は週末によくやっていたキャッチボールも、中学生になってからは一度もやっていない。
肝心の部活動は、現在、“仮”入部期間中らしい。
三ヶ日中学の場合、仮入部期間というのが2週間あるとのこと。
さまざまな部活を見て、「やりたい部活、3年間やり通せる部活を選びなさい」ということなのだろう。
コウタは
「いろいろな部活、スポーツに興味がある」
と常々言っていた。
実際、今まで全く経験したことのない部活に仮入部した。
「野球やればいいじゃん」
というような話は、幾度となくしたが、コウタの気持ちは離れるばかり。
コウタの反応を見て、3つの想いが頭をよぎった。
一つ目は“反抗期”。
中学時代と言えば、“親離れ子離れ”の時期。
子供が自立するための大切な時期と聞く。
単に親の言うことに反目し、親が支持することの違うことを選択する。
これも“子供の成長”と捉えれば、あながち悪いことではない。
もしも後から選択を後悔しても、その後悔を今後の人生に活かしてくれれば、選択ミスも財産となる。
人生は選択の繰り返し。
二つ目は“好奇心”。
コウタはそもそも、以前から「いろいろなスポーツを真剣にやってみたい」と言っていた。
「サッカーと野球はやったことがある。だから今度は違うスポーツをやってみたい」という考え方。
「そのスポーツ合わないよ」と悟しても、「オレは一生懸命やるから大丈夫!」と言われれば、支持しないわけにないかない。
人の感情の中で、“好奇心”は最も尊いものだと思っている。
好奇心があるからこそ、人間は言語を持ち、文明を起こし、未来を考える。
好奇心は最も美しい感情。
三つ目は“燃え尽き症候群”。
運動能力が高い方ではないコウタだが、小学3年生からの4年間、野球を頑張った。
親が見てもビックリするくらい頑張った。
足りない技術は、折れない心と燃えさかる魂で充分過ぎるほどカバーした。
チームメイトから信頼され、チームからは必要とされた。
「だから中学でも」と思うのは親の“エゴ”。
たかが中学の部活動だが、コウタに初めて訪れた“人生の選択”。
悩むのは当たり前。一生懸命考えているからこそ“悩む”のだ。
大切なのは、立派な人間になること。
好奇心に溢れ、人から信頼され、強い信念を持つ人間になって欲しい。
今はその過程に過ぎない。
だからこそ、「考えて自分で決めな」と言った。
中学生になったコウタは、先生からの指名で学級委員長になった。
本人は嫌々だったようだが、親からしてみればうれしかった。
小学校の先生から、中学校の先生にどのような申し送りがなされたかは分からないが、“そういう子”と思われていることは実にうれしかった。
このブログを始めたきっかけは、コウタと同じ境遇の子や、そんな子を持つ親御さんを“勇気づけたい”という想いだった。
怪我をして野球を諦めようとしている子を持つ親御さん、野球がヘタで辞めようと思っている子を持つ親御さんに向けてのメッセージだった。
どこまでその想い(多々脱線はしたが…)がどこまで伝わったかはわからない。
でも、とても多くの方に読んでいただけた。
主人公であるコウタも、大会に参加するたびに、いろいろな方に声をかけていただいた。
その声がコウタの原動力になっていた。
皆さんの声が、コウタを“前へ前へ”と押してくれたのだ。
反面、過度なプレッシャーをかけていたのも間違いない。
コウタに対しては、本当に申し訳ないことをしたと思っている。
もっと普通に、もっと気軽に野球を楽しめたはずなのに、一番近くで応援しているはずの親が、結果的に“それ”を許さなかった。
親がもらった大きな感動は、コウタの苦しみの上にあったのだ。
夢から覚める時がきた。
これからは“普通”に子供を応援していきたいと思う。
例えどんな選択をしようとも。
皆さん、今まで「空飛ぶ野球少年」を読んでいただき、本当にありがとうございました。
コウタの物語第一章はこれにて終了。
この先の物語は、コウタが自分自身で創っていきます。
さまざまな選択を繰り返し、物語を創っていきます。
それが喜劇なのか、はたまた悲劇なのか、全てはコウタ次第です。
どんな物語になるのか、楽しみでなりません。
どんな人間になるのか?
私の中の好奇心が“ふつふつ”と湧き上がっています。
おわり