8月14日。
この日は、「第21回黒潮旗争奪学童野球軟式野球静岡県大会(黒潮杯)」の浜名湖支部予選1日目。
1回戦、2回戦が行われ、ベスト4が出揃うことになる。
この黒潮杯が6年生“最後”の県大会出場の懸かる大会。
少年野球の集大成とも言える大会だ。
三ヶ日フレンズは、誠に残念ながらチーム首位打者の“3番”エイスケが小指の骨折により欠場。
一緒にがんばってきた6年生が、この試合を欠場することになったのは残念の一言。戦力的にも大きくダウンすることになる。
初戦の対戦相手は雄踏。
フレンズ先攻でプレイボール。
先頭打者は“いつも通り”ユウ。先制点が欲しいため、なんとか出塁して欲しかったがショートゴロ。
四球でランナーを一人出したものの無得点で攻撃を終える。
1回の裏、雄踏の攻撃。
先発のマウンドはコウタ。この試合に勝つとすぐさま2回戦を行うため、“エース”のサトシは温存。
前回の登板となった島田大会では1イニングを投げ4失点の大乱調。
課題はとにかく“制球”。
打たれるのは全く問題ない。ただフォアボールを連発する“一人相撲”は絶対に許されない。
いかに勇気を持って打たれることができるか。
先頭打者にいきなりヒットを打たれる。
ノーアウトランナー一塁。
打たれるのはいいが、あっさり打たれた。こうもあっさり打たれると不安になってくる。
いきなりのピンチ。
島田大会では散々なピッチングだった。
だが、自信がついたこともある。
牽制だ。
島田大会では1イニングで2回、牽制でアウトを取ることができた。
当然、自信になっている。
牽制!
アウト!
いきなり牽制で刺した!
その後、後続を抑え、結果3人で終了。
1回を終え、お互い無得点。
2回の表、フレンズの攻撃。
ワンアウトながら2、3塁と先制点のチャンス。
しかし、ここでバッターが「スクイズ」のサインを見逃し、3塁ランナーが憤死。
その後もチャンスをつくるも無得点。
とても集大成と思えないお粗末な攻撃。
2回の裏、雄踏の攻撃は4番から。
珍しく“ポンポン”とストライクを先行させるコウタ。
見ていて、“いつも”のような不安を感じないコウタのピッチング。
何度も何度もピッチャーを首になりかけながらも、決して諦めずにピッチャーを目指してきた。
バント練習やフリーバッティングの際、率先してマウンドに行き、ボールを投げ続けた。
「ストライク入らないからピッチャー代われ!」と言われても、なかなかマウンドを譲ることはなかった。
出来るかどうか、という事は大切なこと。しかし、コウタを見ていると、それ以上に“やりたいかどうか”の方が遥かに大切なんだと教えられる。
能力的には全くピッチャーではない。「ピッチャーをやりたい」と言ったところで笑われるのがオチだ。しかし、フレンズの首脳陣は、事あるごとにチャンスをくれた。そのほとんどが上手くいかなかった。その度に「コウタじゃダメだ」という声を耳にした。当然、コウタの耳にも入っている。それでも、次の練習の時にはマウンドに上がる。牽制の練習の際には、名前を呼ばれてもないのにマウンドに上がり、牽制の練習に“無理やり”参加していた。
コウタがピッチャーをやりたい、ということはみんなが知っている。しかし、コウタがピッチャーじゃダメだ、ということもみんな知っている。
それでもチームはチャンスをくれた。
結果は別にして、投げる度にピッチャーらしくなっていった。
そしてこの日、マウンドのコウタは実に頼もしく、安心して見ていられた。
ずっと、「フレンズにはピッチャーがひとりしかいない」と言い続けてきた。
しかし、フレンズにはもうひとりピッチャーがいる。
大したボールは投げられないが、強い気持ちを持ってマウンドに立つピッチャーがフレンズにはいる。
紛れもなく、コウタはピッチャーだ!
雄踏は2回、3回と三者凡退。
一方のフレンズは3回、4回と3塁までは進むものの、チャンスを活かせず得点を奪えない。
流れは雄踏へと傾く。
4回裏、雄踏の攻撃。
ワンアウト後、ヒットで出塁を許すが、またもや牽制で誘い出し、「アウト!」と思ったが、タッチの際、ボールがグローブからこぼれセーフ。その後、エラーが絡み先制点を許す。
またもや追う展開。
5回表は“1番”のユウからの好打順。
とにかくユウが出塁しなくては何も始まらない。
そのユウがフォアボールで出塁するものの、2番、3番が倒れツーアウト。
バッターボックスにはこの日4番に入った“本塁打王”サトシ。
強震した打球は、グングン伸びて、反対側のグランドのフェンスまで到達する特大のホームラン!
2対1逆転!
5回の裏、雄踏の攻撃。
先頭打者をこの日“初”となるフォアボールで出塁を許す。
が、再び牽制にかかり、セカンドへ送球。「アウト!」と思った瞬間、ランナーのヘルメットにボールが当たりセーフ。
結局、送りバント、スクイズで同点にされる。
4回とほぼ同じ展開での失点。
4回終わって2対2同点。
5回表、フレンズの攻撃。
勝ち越し点を狙い、懸命にピッチャーを揺さぶる。
ワンアウト後、コウタが出塁。盗塁などでツーアウトながらランナー3塁。
バッターボックスは9番の“俊足”タツヤ。
ツーアウトだが、セーフティーバント!
これがセーフとなり勝ち越しに成功!
その後、打線が爆発し9対3でフレンズがリードし、最終回裏、雄踏の攻撃。
最終回になっても体力が落ちない。“ガリガリ”のコウタだが、スタミナは充分ある。
最終回になっても球威は落ちない。むしろ増している。
3人で抑えゲームセット!
7イニングを投げきり、与えた四死球はわずか“2”。
常にストライクが先行する“集大成”ともいえる見事なピッチング!
しかしチームとしては集大成には程遠い出来。
2回戦の対戦相手は“王者”細江。
王者相手に集大成を見せることができるか。
2回戦がまもなく始まる。