とにかく暑い!
3時を回っても相変わらずのうだるような暑さ。
それでも、テントの下にいると心地良い風が吹き抜けているのが実感できる。
ここにきて、風が出てきたようだ。
アップを終えた子供たちが“ダラダラ”と日陰を求めてベンチへとやってきた。
何とか子供たちのテンションを上げようと声を掛けるが、いつものような元気な返事は返ってこない。
トスの結果、フレンズが先攻。
いきなり守備をするよりも、攻撃から始めた方が“試合に入りやすい”ような気がしていたので、先攻で良かった。
3時30分プレイボール。
が、あっという間にフレンズの攻撃は終わる。
三者凡退で、うち三振がふたつ…。
ブラッツのエースの緩急自在のピッチングに全く対応できない…。
「上空は風があるからな!太陽の位置と合わせて準備しとけよ!」
守備へと向かう外野陣に声を掛けたが返事はない…。
どうやら全く耳に入っていないようだ…。
フレンズのマウンドはもちろん“エース”のサトシ。
チームがまだ試合に入っていけない状態の今、サトシに頼るしかない。
頼むぞ!サトシ!
先頭バッターをライトフライに仕留めるも、ライトのタツヤが目測を誤り落球し、ノーアウトランナー1塁。
エラーは仕方がない。ただ、この時は“明らかに”事前の準備不足。太陽の位置も、風も全く頭に入っていなかった。
いきなり盗塁!
ここはコウヘイが好返球を見せ、2塁アウト!
この後、ツーアウトランナーなし。
次のバッターは平凡なセンターフライ。
それを“名手”ユウがまさかの落球…。
完全に風が頭に入っていなかった…。
さらに続く負の連鎖。
次のバッターはこれまた“平凡”なセカンドゴロ。
だが、バッターの足が速く1塁セーフ…。
こうなるとサトシも踏ん張りきれない。
4連打を浴び、いきなりの5失点。
2回の表のフレンズの攻撃は、“4番”キョウタロウがヒットで出塁し、反撃の狼煙をあげる。
しかしその後の6年生3人が“衝撃”の三者連続三振…。
2回の裏、再びノーアウトからエラーでランナーを許す。
牽制を多めに入れて警戒はするものの、走りに走られる。
強豪チームは徹底的に足を使って攻撃を仕掛けてくる。
ブラッツも徹底的に足を使って攻め立てる。
この回も1点を奪われ、2回を終わって0対6。
5回終了時点で7点差が付いていればコールドゲーム。
早くも“コールド負け”がちらつく。
3回表に1点を返し1対6。
3回裏はサトシが三者凡退に切って取り、反撃ムードをなんとか創り出そうとする。
が、4回裏に“決定的”な3点を奪われ万事休す…。
4回が終わって1対9。
5回表にフレンズが2点取れなければゲームセット。
5回の表フレンズの攻撃は“諦めの悪い”6年生、キャプテンのコウタから。
しぶとくボールに食らい付いてヒットで出塁!
が、その後サインミスなどがありツーアウト。
バッターは“諦めの悪い”6年生、副キャプテンのユウ。
粘りに粘る。一体何球ファールにしただろうか…。
フルカウントから最後は“際どい”判定で見逃し三振でゲームセット。
結果は1対9で5回コールド負け。
なんの驚きもない“実力差通り”の結果。
フレンズの遠州大会は、目標であった“2日目進出”を果たせず終了。
やはり“普通”に野球をやったらフレンズは弱い。
もっともっと子供たちがノッて、“生きた声”が出るようにならなければ“奇跡”は起きない。
とはいえ、親が子供に掛ける声というのは非常に難しい。
言葉のチョイスを間違えば、ただプレッシャーを与えてしまうだけ。
逆に足を引っ張ってしまう結果にもなりかねない。
いかに“言葉の魔法”に掛けるか…。
「空を見ろ!」に続く第2弾。
もうしばらく考えてみようと思う。
試合後、顔見知りのブラッツの父兄に挨拶を済ませバスへと戻ると、ブラッツの選手数名がフレンズのバスを取り囲んでいた。
一瞬、もめてるのか!?と思ったがそうではなかった。
お互い笑顔で手を振っている。
はっ!と思い、最後尾に目をやった。
バズの中でのコウタの“定位置”は最後尾の窓際。
立ち上がりコウタを見つけると、笑顔を浮かべ、途中うなずきながら、窓の外を見ている。
窓を隔てて、すぐ外には“シンちゃん”がいた!
シンちゃんが笑顔で、何からコウタに話しかけている。
コウタに会いにきてくれたのだ。
ふたりは幼少時代の数年間、同じ賃貸マンションに住んでいた。
シンちゃんは1階の角部屋、コウタは2階の反対側の角部屋。
わすか12世帯しかいないマンションでふたりは出会っていた。
当時のコウタは人見知りが激しく、ほんの限られた子としか遊べなかった。
シンちゃんはその数少ない友達のひとり。
ほんのわずかな間だが、ふたりは“間違いなく”友達だった。
その後、シンちゃんは初生へ、程なくしてコウタは三ヶ日へと移り住み、新しい仲間と出会い、別々の道を歩んできた。
練習試合で一度顔を合わせているが、その時にはお互い会話を交わしてはいない。
この日も、フレンズが初戦で負けていれば再会することがなかったふたり。
野球というスポーツに一生懸命に取り組んできたふたりに対する、野球の神様からのささやかなプレゼント。
笑顔で何やら会話をするふたりを見ているとホントに「野球の神様っているのかな」と思えてしまう程の、奇跡的な再会。
バスはゆっくりと動き出した。
コウタは振り返ってずっと手を振っている。
徐々に小さくなっていくシンちゃんもずっと手を振っている。
ふたりにしか見えない“絆”が芽生えはじめているのかもしれない。
負けはしたが、何とも言えない“心地良い”気持ちに包まれた一日。
バスの窓からは“やさしい”風が注ぎ込んでいる。