第49話/雨中の“死闘”の果てに!

ワカさん

2011年06月21日 15:52

3回戦の相手は六郷。
磐田チャンピオンの中泉に競り勝った強豪チーム。
圧倒的な格上。

小雨が降りしきる中プレイボール。

先攻はフレンズ。

先頭のユウがデッドボールで出塁。
その後ランナーを出すが、ツーアウト。

打席には、前の試合でホームランを放ったサトシ。
初球を叩いた打球はグングン伸びてセンターオーバーの2ベース。

2点を先制。

1回の裏、六郷の攻撃。
雨が本降りになってきた。


マウンドにあがったのはコウタ。三ヶ日大会での悪夢が頭をよぎる…。

ツーアウトまでこぎつけるも、ポテンヒットで1点を奪われる。
その後はエラーが続出…。
結局、初回にいきなりの6失点。

初回が終わって2対6。

完全に三ヶ日大会の再来…。
このままズルズル失点を重ねていしまい、そのうちに声がなくなる…。
何も出来ないまま“コールド負け”…。
そんな予感がする初回の攻防…。

まだベンチは声が出ている。

2回表、フレンズが1点を返す。
7番からの下位打線からだったが、3塁まで進み、ユウの内野安打で1点を返した。

2回裏の六郷の攻撃。

雨に慣れていないせいか、この回もエラーが続出…。
相手も状況は同じはずだが、エラーが出るのはフレンズばかり…。
六郷ほど基礎ができていないため、ぬかるんだグランドに足をとられたり、ボールを捕る前に目を切ってトンネルをしたり、ボールが滑って悪送球になったり…。


エラーが出るたびアウトカウントを叫びチームを鼓舞するコウタ。やることはただひとつ。コウヘイの構えるミット目掛けてボールを投げるだけ。

2回はなんとか無失点で切り抜けた。

2回が終わって3対6。

強豪相手に3点差。
今までならほとんど敗退確定。
サトシが投げていればまだしも、投げているのはコウタ。
この先、何点取られるかわからない…。
フォアボールを連発し、追加点をバカバカに奪われ、気が付けばコールド負け…。
完全にそんな展開…。

それでも今年のフレンズは決して“諦め”ない!

3回表フレンズの攻撃。

雨はより一層激しくなってきた。

相手ピッチャーはボールの滑りがきになるのか、フォアボールを連発。
ノーアウトランナー1、2塁。

気が付けばベンチは総立ちで応援してる。

野球はピッチャーとバッターの“1対1”の勝負から試合が始まる。
しかしこの時はベンチ声援がバッターを後押し。
もはや“1対1”ではなく、“1対18”。ベンチ全員がピッチャーと戦っている。

パスボールでランナーが進塁すると、コウヘイのファーストゴロの間に1点、コウタのスクイズで1点追加し1点差、そして5年生のヒロキにタイムリーツーベースが出て同点に追いつく。その後、押し出しで逆転に成功した。

雨はどんどん激しさを増し、グランドは水浸し。いたる所に水溜りができている。

7対6とした3回裏。

ノーアウトからエラーでランナーを出す。
バントで送られ、ワンアウトランナー2塁。

相手も一丸となってピッチャーにプレッシャーをかける。
心が折れそうになるほどの相手のプレッシャー…。
さらに味方からの「ストライク入れてけ~」の声援…。
全てがプレッシャーをなり、ピッチャーの心を押しつぶしにかかる…。


それでもコウタは淡々とボールを投げ込む。雨が降ろうが、エラーがあろうが、野次られようが、淡々とコウヘイの構えるミット目掛けてボールを投げ込む。

三振を取れるようなスピードボールはない。
バットを押し込むような球威もない。
しかしコウタには、誰にも負けない“強い気持ち”がある。

技術的には全くピッチャーとは言えないコウタだが、“強い気持ち”もピッチャーの資質とするならば、コウタは立派なピッチャーだ。

しかし、残念ながら野球は思い通りに進まない。
その後エラーが2つ重なり2点を奪われる。

3回が終わって7対8で六郷リード。
流れは完全に六郷へと“ググッ”と傾く。

4回表のフレンズの攻撃はあえなく三者凡退。

4回裏、六郷の攻撃。
傾いた流れは簡単には変わらない。

グランド不良を見越したバント攻撃の術中にはまりランナーを許すと、再びエラーが連発し、この回2失点。

4回を終わって7対10。

今度こそ“無理”…。
雨は強くなる一方…。
5回を越えれば試合は成立…。

実質最終回となる。
点差は3点…。
打順は7番のコウタからの下位打線…。
もはや逆転は不可能…。

強豪相手に良くやった。

そう思っていた…。


コウタがバッターボックスへ向かうため、バットを取りに行こうとすると、“4番サード”の5年生キョウタロウがバットとヘルメットを差し出した。そのバットとヘルメットはタオルでキレイに拭いてあった。そのバットを受け取ったコウタは打席へと向かう。

それまでは気が付かなかったのだが、6年生が打席に入る際、キョウタロウと“2番ショート”4年生のコウスケがバットとヘルメットをタオルで拭いて渡していた。もちろん初めて見る光景。誰かに言われてやったのかもしれない。それにしても、野球がヘタで、下級生から見下されていた感のある6年生。しかし下級生はしっかり見ていたのだ。懸命に頑張る6年生の姿を。バットを拭いて渡すその光景は、下級生が上級生に抱く信頼感の証。

となれば、まだまだ終われない。

ベンチが一丸となって、コウタの背中を押す。
みんな立ち上がって大声を出す。

誰も全く諦めていない。
みんなの声がひとつになって“雰囲気”をつくりだす。

相手チームも総立ちで応援しているが、その声はフレンズの声にかき消され、点差があるにも関わらず、フレンズの押せ押せムードに変わった!

先頭のコウタが粘りに粘りフォアボールで出塁。
盗塁で2塁に進むと、ヒロキが再びヒット!


足元が悪い中、ホームへ激走し1点を返す。8対10。その差2点。

ユウも出塁すると、コウスケのヒットで二人が生還!

10対10同点!

その後パスボールで逆転!

ツーアウトながら満塁。
バッターは“4番”キョウタロウ。

結果は見逃しの三振…。

雨でこの回からストライクゾーンが広くなっていたのだ…。

涙が止まらないキョウタロウ…。

11対10逆転。

5回裏の六郷の攻撃は、ワンアウト1、2塁から、ポーンと上がった打球がセンターとレフトの間に飛ぶ。

フレンズの子たちはこの回が最終回と聞かされていない。

無理をせず、ワンバウンドで捕球しようとするが、雨でバウンドが変わり間を抜ける。

その間にランナーが二人返りサヨナラ。

大はしゃぎの六郷ベンチ。

結果は11対12。
格上相手に大健闘!

12点奪われたがコウタはよく投げた。
諦めずに粘り強くホント良く投げた。

その背中をみんなが見ていた。

雨の影響があってか、フレンズのエラーは9つ。
普通であれば完全なる大敗。

でも諦めない気持ちが接戦をつくりだした。


試合後、コウタは「勝ちたかった…」と言っていた。

理由を聞くと
「負けるなら、サトシで負けたい…」
と言っていた。

サトシがチームの“エース”。
エースが投げてこそのチーム本来の姿。

“サトシに繋げる”という思い。

これが「雨中の死闘」を生み出した要因かもしれない。


この日ばかりは“負けて得るもの”があったといわざるを得ない。好ゲームをありがとう!




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