第48話/声が生み出す見えないチカラ!

ワカさん

2011年06月20日 23:04

6月18日。

この日は「いわしん杯」2日目。2回戦と3回戦が行われ、ベスト4が出揃う。

フレンズは、黒潮との白熱した投手戦を制した袋井南と対戦。
この日からは“勝てば2試合”という状況になるため、上位に食い込むためには、エースの使いどころが“鍵”となる。

仮に袋井南に勝てば、磐田チャンピオン“中泉”もしくは菊川の強豪“六郷”との対戦になる。
このクラスのチームとは練習試合すらできない、完全なる“格上”。せっかく対戦できるのであれば“エース”で戦いたい。
監督も、親も、同じ気持ちだ。

悩んだ末、監督は袋井南戦で「サトシ先発」を決断。
当然といえば当然。

あと1回勝てば“ベスト8”!
今年のフレンズからすれば出来すぎ。

さらに、初戦を見る限り、袋井南のピッチャーはいい。
大量得点は見込めない。


今にも雨が降り出しそうな天候の中、試合が始まった。

先行は袋井南。


いつものことだが、大きい子がいる相手とばかりあたる…。もしかしてフレンズが小さいのか…。


この日の“エース”サトシは上々の立ち上がり。ツーアウトからランナーを出すが、四番を三振に仕留める。

“鬼門”となっていた初回を無失点で切り抜けた。

その裏、フレンズの攻撃。


先頭のユウがデッドボールで出塁。すかさず盗塁を決める。

その後、ワンアウト1、3塁とチャンスをつくるが、走塁ミスが出て1点どまり。
それでも先制点を奪うことに成功。

2回表、袋井南の攻撃。


ノーアウト3塁とピンチを招く。コウタは声でサトシをサポート。

結局このピンチを切り抜け無失点。

その裏、フレンズも相手ピッチャーを攻め立てるがあと一本が出ず無得点。

3回の表、袋井南は三者凡退。

その裏、ランナーを二人置いたところでバッターボックスはサトシ。


快音を残した打球はセンターの遥か頭上へ!悠々ホームインできる特大の3ランホームラン!初戦に続き、大会2本目のホームランだ!

これで3回が終わって得点は4対0。

4回はお互い無得点。

5回表、袋井南はフォアボールでたランナーをスクイズで返し、4対1。

点差は“わずか”3点。
まだまだ予断を許さない。

なのに、どこかしら安心感がある。
それは、“勝つだろう”という安心感。

理由は“チームの雰囲気”。

フレンズの雰囲気がとにかくいいのだ。

最近では、試合中に監督やコーチが声を荒げることがほとんどない。
ミスが出て怒鳴ろうと思っても、監督やコーチよりも先に、ミスをした選手に、他の選手が声を掛ける。
ポジショニングが悪い6年生がいたら、例え下級生であっても気が付いた時点で声を掛け、修正を促す。
相手からの“ヤジ”が集中するピッチャーに対しては、それをかき消すほどの大きな声でピッチャーを励ます。

その声の中心にいるのはコウタ。
コウタが声を出すことでチーム全体から声が生まれ、雰囲気が高まる。


常に声を出し鼓舞する。相変わらず打てないが、少しは貢献しているような気がする。

昨年コウタに「お前は“ヤジ将軍”だなあ」的なことを言ったことがある。

それに対しコウタは
「オレ、声出さないと試合出られないって言われてるからさあ」

昨年はコウタが試合に出ることは稀。
それでも試合に出たかったようだ。

正直、自分自身、「声を出せ」の意味がよく分からなかった。
声を出そうが、出さまいが、「どうせ強いチームには勝てない」と思っていた。
要は、声が結果を左右することはない、“意味のないもの”と思っていたのだ。

コウタはどんな状況でも声を出し続けていた。
接戦ならまだしも、コールド負けするような試合でも声を出し続けていた。
大敗の試合でも大声を出して応援するため、首脳陣から「恥ずかしいからやめろ!」と言われたことすらある。

三ヶ日大会の時もそう。
大敗濃厚で、しかも自身はノックアウトされ、ベンチだけでなく、応援席からも声がなくなったにも関わらず、ひとり声を出し続けていた。

恥ずかしかった時もあるだろう。
嫌だったこともあっただろう。

それでも声を出し続けていた。

その意味が、その必要性がやっとわかった。
“声”がチームをひとつにし、“声”がチームの雰囲気を作り出す。
そうして生まれた“雰囲気”はチームに力を与え、時に格上のチームを飲み込むことすらある。

あの時、コウタに「お前は声を出さないと試合に“絶対”出さないゾ」って言ったコーチは、声が、声こそが、チームの雰囲気を作り出すモノと気付いて欲しかったのかもしれない。

それをバカ正直に信じて声を出し続けた結果、コウタはかけがえのない力を手に入れた。

コウタの声は、チームの“雰囲気”をつくりだす。


試合はフレンズが4対1で勝利!

すぐに3回戦が始まる。

3回戦の相手は、磐田チャンピオン“中泉”を下した“六郷”。

完全なる格上。
しかも、サトシはもう使えない。

同じ状況でコールド負けを喫した「三ヶ日大会」が頭をよぎる…。

ベンチの前ではコウタがコウヘイとキャッチボールを始めた。

(まさか…)

空を見ると、厚い雲がどこまでも続いている…。

ベンチ前に目をやると、コウタとキャッチボールをしてるコウヘイがしゃがんで構えた…。

(まさか……)

雨がポツリポツリと降り出してきた…。

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