第2話/左手首骨折!

ワカさん

2010年08月26日 19:09

13時頃。

再び消防署の救急隊から電話が。
「お子さんは聖隷三方原病院に搬送されることになりました。5分程でドクターヘリが病院に着きます」
近くのコンビニで待機していた我々はすぐに病院へ向かう。
嫁さんは涙が止まらず運転ができない。わたしと運転を変わった。

13時20分頃。

救急センターに着き、コウタの親である旨を告げ待つことに。
嫁さんはまだ泣いている。

14時30分頃。

まだ呼ばれない。
再度受付へ。
すると、
「先生に聞いてきますので少しお待ちください」
受付の女性が奥へと消えていった。
受付で立ったまま待っていると、壁の隙間から奥の様子が見えることに気が付き、その隙間から奥を見ていると、さっきの受付の女性が小走りで戻ってきた。
(あれっ?走ってる!?)
不安がよぎる。
「今先生が来ますのでそのままお待ちください…」
ここは待合室だ。通常先生がここまでくることはない。先生が来るって言われるとより不安が増す。
もはや、嫁さんは顔を上げることすらできなくなっていた。

「コウタくんのご家族の方いらっしゃいますか?」
先生はすぐにやってきた。先生は救急ドクターだった。風貌はドラマの「コードブルー」そのもの。
「こちらへどうぞ」
奥へと誘導される。
すぐにでも状態を聞きたかったのだが、怖くて聞けない。

診察室と書かれた部屋をいくつも通り過ぎさらに奥へ。案内された場所は“小手術室”と書かれた部屋だった。

その部屋の中央の小さなベッドにコウタはいた。両腕を固定され、血だらけになったタオルが掛けられ、心電図と点滴で繋がれていた。

「コウタくん、お父さん、お母さん来たよ」

コウタの姿を見た嫁さんは、安堵からか涙が止まらない。
「よかった…」
嫁さんはそれ以上言葉にならなかった。

それを見たコウタの目からも涙が零れ落ちた。

「ずっと泣かずにがんばってたもんね」
救急ドクターがコウタに話しかける。
ドクターの話では、泣かずに、質問に対して「はい」、「いいえ」とハッキリ答えていたようだ。
ここで思い切ってドクターに状態を聞いてみたが、はっきりした答えが返ってこない。
「今レントゲンをとったばかりですので、状況についてはもう少しお待ちください」

コウタとは顔を合わせただけで、再び待合室へと追いやられる。

15時頃。

再び呼ばれ、小手術室へ。
「まもなく整形外科の先生が到着すると思いますので、それまでお話いただいて結構ですよ」
救急ドクターは、まだはっきりしたことは言わない。最悪の事態は回避された雰囲気だが、専門医の診断ではないため、まだ予断を許す状況ではない。

今度はコウタが話かけてきた。

「お父さん、今日ね、ピッチャーの練習したよ」

涙が出そうになった。「痛かった」とか「怖かった」とか言うと思っていたら、第一声が「ピッチャーの練習したよ」。これには感情が溢れだしそうになった。嫁さんがボロ泣きしている今、わたしまで泣いてしまったら、コウタが不安がる。そう思って耐えていたが、この時ばかりは涙が溢れ出しそうになった。ピッチャーをやりたくて始めた野球。やっとそのピッチャーがすぐそこまで来ていた。手に入る所まで来ていた。それが、その練習のわずか数分後に、するりと落ちていった。本当に野球が好きなんだなと改めて思った。もちろん、コウタが心配かけさせてくない、と思って発した言葉だと思うが、その気遣いがより辛かった。

程なくして、整形外科の先生が到着。我々は再び待合室へと戻った。

16時45分頃。

診断結果を聞くため、再び小手術室へ。
整形外科の先生は自己紹介を済ませると、レントゲン写真を我々に見せながら診断結果の説明を始めた。

「頭、背中、腰などの骨に異常はありません」

一番聞きたかった言葉をやっと聞けた。
安心したのか、嫁さんは手で顔を覆った。

「まずは右腕。筋肉が断裂しています。神経がちゃんと戻らない可能性があります。筋肉がつきにくくなったり、しびれが残るかもしれません。そして左手ですが、手首を骨折しています。成長をつかさどる箇所ですので、右手と比べて短くなるかもしれません」

すかさず先生に質問をぶつける。
「息子は左利きで、野球をやってるんですが、野球はできるようになりますか?」

「できるようになると思います」

「先生、ピッチャーは?」

「………」

野球は再びできるようになるそうだが、ピッチャーについては明確な答えはなかった。

「とにかく緊急で手術が必要です。手術室が空き次第手術になります」

最悪の事態は回避できた。だが、ピッチャーの夢は諦めざるを得ないのか…

しかしながら、すぐに手術してもらえるということなので“ツイていた”。手術室が空けなければ、手術は後日になるとの話だったのだ。

入院用に用意してもらった病室へ行き、手術室が空くのを待つことになった。


つづく

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