敗北の“恐怖”。

平成26年1月11日。

いよいよ『静岡県新人戦県大会』当日となった。

この大会は、各地区予選を勝ち抜いた24チームが参加。
それを3チームずつ8つのブロックにわけ対戦。
一日目は3チーム総当たりのリーグ戦。
その中の上位1チームが、翌週に行われる決勝トーナメントへ駒を進める。
そして、ベスト8が出そろい争われる決勝トーナメントで1回勝つと、晴れて『東海大会』出場。
三ヶ日中は、南伊豆中と金谷中とともに、決勝トーナメント進出を争うことになっていた。


会場へは、“いつも通り”、学校に集合し、チームバスで向かう。
野球部がチームバスを持っている学校はあるだろうが、
公立の、しかも女子バレーボール部が専用のチームバスを持っているのは珍しいのではないだろうか。

ピリついていると思っていた車中は、“いつも通り”の「ワイワイガヤガヤ」。
富士山が見えてくれば大騒ぎしていた。
震えるほど緊張感がない…。
どうやら緊張しているのは親の方だったようだ…。

試合は第二試合。
これまた“いつも通り”「追いかけっこ」を始め出した。
アップを兼ねて行っているようだが、懸命に逃げ、全力でそれを追いかける。
彼女たちが独自に編み出したルーティーンのようなので、特に言うことはないが、
傍から見れば、ただただ遊んでいるようにしか見えない。

そうこうしているうちに、試合の時間になった。

初戦の相手は、南伊豆中学校。
初対戦となるため、どんなチームかは未知数。もちろん不安だ。
だが、全幅の信頼を置く顧問の先生が「自分たちのバレーをすれば勝てる」というので、
とにかく「自分たちのバレーをする」という一点だけに集中するし、試合に臨むことになった。

試合は、お互いミスが多い立ちあがりだったが、三ヶ日中が先にペースを握り、25対8で先取。
このまま2セット目も25対4で奪い、ストレート勝ちを収めた。

このまま二日目進出を懸けた第二試合、金谷中学校と対戦。
一試合目の勢いをそのまま、一気に勝てるかと思ったのだが、
この二試合目は、一試合目とは全く別のチームになってしまっていた…。
相手の長身エースを全く止められず、さらにはミスも重なり、一セット目を20対25で落としてしまった。
あと一セット取られれば、目標としていた『東海大会』出場は、泡と消える。

だが、意外にも焦りはなかった。
子供たちも、そして親も。
先生は言っていた。
「自分たちのバレーをすれば勝てる」と。
相手は関係ない。
やることはただ一つ。
「自分たちのバレーをするだけ」。
そうすれば勝てる。
理由はただ一つ。
先生がそう言ったからだ。

二セット目に入ると、手を焼いていた相手の長身エースにも対応し始め、
“いつも通り”拾いまくる。
すると三ヶ日中が徐々にペースを掴み始め、二セット目は25対19で奪取。
三セット目は、完全に三ヶ日のペースとなり“自分たちのバレー”を展開。
三セット目を25対13で奪い勝利。
ベスト8進出を決めた。

あとひとつで目標としていた『東海大会』。
ここまできたらどうしても行って欲しい。

隣のコートでは、三ヶ日中と対戦する相手を決める戦いが行われていた。
JOC選手を擁する賤機中学校が有力と思われていたが、
フルセットの戦いを制したのは、東部地区代表の大平中学校。
これまでほとんど名前を聞いたことがない未知のチームだが、
そのプレースタイルは“粘り”。
とにかくみんなで拾いまくる。
ほとんど対戦経験のない、同タイプのチームと対戦することとなった。

ベスト8に進んだチームを地区別で見ると、
西部が2校、東部が1校、そして東部はなんと5校がベスト8へと駒を進めた。
東部のチームは、部活動の後に、クラブチームとしても活動しているチームが多いと聞く。
東レのサポートもあり、指導も充実しているという話も聞いた。
そういったことが東部の躍進の原動力となっているのだろう。
今年の静岡県の勢力図は“東高西低”。
大平中学校がより不気味に思えてきた。


平成26年1月17日。
“運命”の県大会二日目。
いつも通りに学校に集合するのだが、エースがなかなかやってこない。
みんなが心配していると、程なくしてやってきた。
車から降りた彼女は“顔面蒼白”…。
明らかに体調が悪い…。
どうやらプレッシャーで眠れず、朝まで嘔吐を繰り返していた、とのことだった。

三ヶ日中の攻撃をひとりで支える彼女はチームのキャプテンでもある。
周囲からは“期待”という名の、恐ろしいほどのプレッシャーがある。
チームには“4季連続”の東海大会出場という、震えるほどの“重圧”がある。
その全てが、彼女の両肩に圧し掛かっていたのだ。

彼女はひとりチームバスを離れ、親御さんの運転する車で会場へと向かうこととなった。

いつもは騒がしいバスだが、この日は静まり返っていた。
子供たちへと目を向けると、各々が車窓を眺めていた。
物思いにふけるように、何を見るわけでもなく、ただただ戦っていた。
心の中から湧き出る“敗北の恐怖”というプレッシャーと。

沈黙の中、バスは会場である「吉田総合体育館」へと到着した。



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