秋季大会敗退翌日。
新たな出発となるこの日、早くも練習試合が組まれた。
一試合目の先発はコウタだった。
試合前にユウキから何やら声を掛けられ笑顔でマウンドへ。
秋季大会でレギュラー陣は大きな飛躍を遂げた。
一方で、コウタは一度も登板がないまま大会は終わった。
出場した子と出場していない子…。
どれほど大きな差がついただろう…。
一抹の不安を抱えたままコウタのピッチングを見守る。
前日激戦を繰り広げたレギュラー陣は気持ちを切り替えるためか、普段とは違うポジションについた。
ピッチャー(コウタが投げる時はショート)のユウキがライトへ、サードのタカアキはファーストへ、そしてショートには“なんと”サトシが入った。
もちろん各々、それらのポジションをこなす能力を備えている。
心配の種はコウタだけだ。
みんなが心配そうに見守る中、コウタはテンポよく安定したピッチング。
常にストライクが先行する危なげない投球で、終わってみれば1安打完封。フォアボールもふたつ出しただけだった。
結果が出たのは良かった。
これでお役御免とばかり、安心して二試合目を観ていたのだが、ブルペンで誰かが投球練習を行っている。
(んっ!?)
投げていたのはコウタだった。
これまで一日に2度登板することは一度もなかったのだが、この日は2対1で三ヶ日中が1点をリードしている状態で6回からマウンドへ。
せっかく一試合目で好投したのだからそのままにしておいて欲しかったが、僅差の試合でマウンドへあがることになった。
これまでリリーフ登板をして成功した試しがない…。
フォアボールでランナーをため、その後大量失点…。
これが今までのパターン…。
実に不安だった…。
そんな不安をよそに、この試合でもストライクが先行する安定したピッチングを披露。
危なげなく2イニングを抑え、自身“初”となるセーブを記録。
秋季大会で登板の機会はなかった。
それでも他のみんな同様、成長していると実感できる投球だった。
帰宅後コウタに
「ナイスピッチ!」
と声を掛けたのだが、イマイチ的な返答だった。
疑問に思いコウタに聞くと、
「ユウキから、この試合はパーフェクトやれよ、って言われてたからさ…」
正直驚いた。
パーフェクトとは完全試合のこと。
ランナーを一人も出さずに勝つということだ。
コウタはこれまで完封すら一度もない。
そんなコウタに対して、チームの顔であるユウキは「パーフェクトを狙え」と言った。
もちろん茶化して言っただけかもしれない。
だがコウタはそれを真に受け、パーフェクトを目指した。
パーフェクトはならなかったが、完封勝利をあげることができた。
きっとユウキの言葉は「みんなで上を目指すんだ!」という意思表示。
「早くオレの所までやってこい!」
「このチームに相応しいピッチャーになれ!」
そんな激励に聞こえた。