3年生がいなくなって2週間。
基礎トレーニングが続く。
試合に出ていたのはユウキただ一人。
それ以外の子たちはまさに“ゼロ”からのスタートになる。
練習の中心もユウキ。
監督の指示がイマイチ把握できないケースがあり、その内容をユウキが身ぶり手ぶりをくわえ、みんなに伝える。
練習中は2年生を中心に声はあるものの、“生きた声”を出しているのはユウキのみ。
コウタも一生懸命声を出しているものの、その声が目立つことはほとんどない。
彼ら、特にユウキ以外の2年生は何を思って練習しているのだろうか…。
彼らが目標に掲げたのは“県大会優勝”。
きっと多くのチームが同じ目標を掲げていることだろう。
目標を掲げるのはいいが、実際には「どうすればそこに辿り着くのか」が明確にならないまま、日々練習しているチームも多いのではないかと思う。
三ヶ日中の場合は違う。
明確な目標となる選手がいる。
ユウキだ。
強豪だった昨年のチームにおいて“唯一”の2年生レギュラー。
東海大翔洋中との激闘の中にも彼はいた。
県大会で優勝してもおかしくないチームの中にユウキはいたのだ。
となれば目標を達成するための手段は簡単。
ユウキのレベルまでみんなが上がればいい。
もちろん、プレーレベルで追いつくのは容易ではない。
だが、練習の取り組みや声は意識すれば追いつく。
それこそが目標達成への第一歩だ。
だが、練習を観る限り、誰からもそんな気配は見られない。
“ユウキは別格”。
そんな雰囲気が漂っている。
そんな中、その思いをより一層際立たせる事柄があった。
監督がノックの際、「希望のポジションにつけ!」と発した。
ノックといってもまだ基礎練段階のため外野はなし。
内野の6か所のいづれかの守備につく。
19名の選手が内野に散らばる。
「!」
そこには“まさか”の光景が広がっていた。
ショートにいたのはユウキ“ただ一人”。
ユウキを避けるかのように、サードとセカンドに選手が集中していた。
ユウキは苦笑いをしていたが、果たしてこれでいいのだろうか。
希望のポジションがそもまま自分のポジションになるわけではない。
むしろここはアピールの場。
ユウキに挑む姿勢をみせれば監督からの評価・見られ方も変わるに違いない。
にも関わらず、みんなユウキから“逃げた”。
この状態を観る限り、このチームには何も起こらない。
チームとして成り立たせるためには、ユウキが“下”に合わせなければならない…。
仲良しチームにはなるかもしれないが、そんなチームが勝てるはずがない…。
彼らが立てた目標はただの“夢”へと変わる…。
7月20日。
この日は午後から紅白戦が行われた。
代が変わってから、ずっと基礎練が続いており、これが初の実戦形式。
選手は随分と喜んでいたが、実に不安だった…。
紅組はユウキ、サトシを中心に1年生のレギュラー候補もいる“メンバーが揃ってる”感のあるチーム。
白組はなんとなく“小粒”感のある構成だった。
試合はワンアウトから始まる特別ルール。
負けたチームにはツライ罰走が待っている。
紅組の先発はコウタ。
中学に入ってからはピッチングは“そこそこ”安定しており、「一年生大会」の準優勝に貢献し、1イニングだが、「公式戦」に登板することもできた。
が、この日はまるで“振り出しに戻った”かのように制球が全く安定しなかった…。
荒れに荒れたそのピッチングはもはや修復不可能…。
フォアボールを数えきれないほど出し、2回1失点でマウンドを降りた…。
“だら勝ち”と思われた紅組だったが、“だら勝ち”したのは白組。
最終回を迎えた頃には0対13と大差をつけられていた。
こうなるの何のための紅白戦だったのか、意義を見つけるのが難しい…。
そんな中、紅組のベンチから大声で
「まだイケる!!絶対諦めんな!!」
チームを鼓舞する声が聞こえる。
声の主はユウキだった。
その声に呼応するかのように、サトシもトシヒロもベンチから飛び出し、バッターであるコウタに声援を送った。
粘った挙句、コウタは四球で出塁。
その後のランナーをため、トシヒロのホームランで一矢を報いた。
ユウキの声を発端にした最後の粘りは見事だった。
理想とする“諦めないチーム”になりそうな予感はあった。
しかしそれを引き出したのは間違いなくユウキの声。
ユウキの“ワンマンチーム”としての粘りだった。
今年のチームは果たして誰のチームなのか。
ユウキのチームか?
それでは絶対に勝てない。
このチームは
ユウキのチームであり、
サトシのチームであり、
タカアキのチームであり、
トシヒロのチームであり、
カズマのチームであり、
コウダイのチームであり、
コウキのチームであり、
ユウのチームであり、
シラケンのチームであり、
コウタのチームだ。
各々が他人に依存するのではなく、“自分のチームだ!”と思い、日々取り組む必要があり、そういうチームが強固なチームへとなる。
彼らが立てた目標はただの“戯言”か、はたまた本当に“実現したい目標”なのか。
夏休みでの取り組み方、考え方が今後のチームを大きく左右する。
チームは始まったばかり。
だが、最後の大会までは330日くらいしかない。
今がどん底だと信じたい。