この週末、浜名湖支部の「一年生大会」が開催された。
三ヶ日中学は土曜日に予定されていた一回戦を不戦勝で勝ち上がり、日曜日の準決勝へ。
準決勝は、湖西対決を制した湖西中と対戦することになっていた。
この大会の意義を再度確認したところ、決勝に残った2チームに、2年生になってから行われる「新人戦」のシード権が与えられるということだった。
いくら“谷間”とはいえ、巷では“強豪”といわれる三ヶ日中学野球部。
「シード権確保」は絶対条件。
となれば大切なのは“準決勝”ということになる。
試合経験は紅白戦のみ。ほぼぶっつけ本番で大切な試合に挑むことになった。
午前9時頃、会場である雄踏中へ到着。
グランドでは準決勝第一試合の細江中vs.引佐南・北(合同)中の“強豪”対決が行われていた。
この年の両チームは小学校の時から“強豪”として名を馳せているスターチーム。
何人かの1年生は、すでに2年生チームのレギュラーとして活躍しているらしい。
ともにミスらしいミスがなく、ハイレベルな攻防が続く。
遠くから試合を観ていたのだが、あまりのレベルの差に愕然とした。
(この両チームには絶対勝てないな…)
試合は引佐が細江を3対0で下し、決勝進出を決めた。
第二試合は三ヶ日中vs.湖西中。
いよいよコウタたち1年生の“初”試合が行われる。
「こんにちは!」
2年生の父兄の方が応援に来てくれた。
校長先生も、少年団で指導者をされていた方も、そして嫁さんの両親も…。
気持ちはもちろんうれしい。
だが、観てもらえるようなレベルに、皆さんが期待されるような三ヶ日中学のレベルには到底ない。
さらに先発予定は「背番号1」のコウタ…。
実はかなり“辛かった”…。
「観るに耐えない内容になる」と思ったからだ。
遠くまで申し訳ない…。
そんな気持ちでいっぱいだった…。
この日は今年一番の寒さ。くわえて浜名湖からの冷たい風が体を芯から冷やす。
ガリガリのコウタは人一倍寒さに弱い…。一人だけ背中を丸めたまま整列…。
先攻は湖西中。
まっさらなマウンドに上がったのは「背番号1」を背負ったコウタ。
寒さに震え、背中を丸め、ポケットのホッカイロをまさぐる…。
三ヶ日中の1年にはふたりの“怪物”がいる。
ひとりは“不動の四番”サトシ。もうひとりはこの日キャプテンを務めたユウキ。ユウキは2年生の試合でもレギュラーを張っている“スター候補”。
チームとしては、このふたりの前にいかにランナーをためるかが得点を奪うための鍵。
そしてピッチャーとしては、いかにこのふたりに繋ぐか、がポイントとなる。
監督からコウタが与えられた役割は“4イニング”を投げきること。
その後は、ユウキかサトシにスイッチし、勝利を目指す。
この日はとにかく、芯から冷えた。
風も強い。
小学校の時も凍える中投げたことはあるが、いずれも散々の出来…。
マウンドで震える姿を観ていると、どうやらこの日も期待できそうもない…。
この日を最後に「マウンドにあがることがなくなるのでは…」と思いながらコウタに注視した。
最後になるかもしれない「背番号1」を背負った雄姿をこの目に焼き付けようと、コウタを観続けた。
試合が始まった。
そして予感は“的中”…。
全くストライクが入らない…。
先頭打者にいきなりの“ストレート”のフォアボール…。
ホッカイロをまさぐり、手に息を吹きかけ、肩をグルグルと回すが、寒さには勝てない…。
制球が定まらず、さらにピンチを広げる…。
マウンド上で飛び跳ねたり、モモ上げをしたりするが、寒さには勝てない…。
ピッチングにならない…。
それでも味方の攻守に助けられ、初回をなんとか無失点で切り抜けた…。
目指すピッチングは打たせて取る投球、“10被安打完封”。
0点に抑えたものの、とにかく内容が悪すぎる…。
ベンチに戻ると、体を温めるためにダッシュを繰り返すのだが…。
1回裏、三ヶ日中の打線がいきなり爆発し、大量6点を奪う。
ラクに投げられる。
はずだった…。
依然、安定しない投球が続く…。
風に体が流され、軸足に体重が乗らないまま投げだすため、リリースがバラバラになり制球を乱しまくっていた…。
こんなピッチングでは野手のリズムも崩れる。
案の定、エラーでランナーを溜め、コウタの暴投で失点を許した…。
(こりゃ無理だ…)
「ピッチャー交代」がちらつきはじめ、ベンチに目をやる。
監督はベンチに腰掛け動く気配がない。
コーチは腕を組んだまま、マウンドをじっと見つめ、これまた動く気配がない。
不安定な投球が続く…。
点差はあるものの、これ以上失点を重ねるようでは“敗戦”がちらつき始める…。
(もう代えて…)
コーチがマウンドに向かって叫んだ。
「コウタ、もっと軸足に重心を残せ!」
コウタはホッカイロをまさぐったまま大きくうなずく。
すると徐々にだが、ストライクが入りだした。結果、最少失点で切り抜けることができた。
三ヶ日が2回裏に追加点を奪い、2回が終わって7対1。
3回のマウンドにもコウタが向かう。
するとこの回から(やっと)ストライクが先行するようになった。
仲間の守備、特にサトシが盗塁を刺しまくってくれたおかげで、無失点で3回を終えた。
そして“コウタの役割”である4回のマウンドへ。
フォアボールでランナーを出すものの、危なげなく無失点。
役割を終えた。
と思ったが点差が点差。
ピッチャーには“イニング制限”があるため、いいピッチャーは決勝にとっておきたい。
5回もマウンドへ。
この回も無失点で切り抜けると、その裏に三ヶ日中が得点を挙げ、5回コールド勝ち。
三ヶ日中学1年生の初勝利!
みんなに助けられ、コウタは勝ち投手となった!
アップアップだったが、コウタはひとりで投げ抜いた!
これでコウタはお役御免。
寒い中、よく投げた!
シード権獲得!
とにかく“ホッ”とした。
これでゆったりと決勝戦を観戦できる。
続いて行われる決勝戦の相手は“スター揃い”の引佐。
圧倒的に“格上”との対戦となる。
だが、コウタが完投したことで、ユウキとサトシを使うことができる。
“わずか”だが可能性がでてきた。
昼食後、決勝戦となるのだが、監督・コーチが審判に何やら確認をしていた。
この時には大して気にも留めなかったのだが…。
いよいよ決勝戦。
整列後、両チームが散らばる。
先攻は引佐。
三ヶ日中ナインが勢いよくグランドへ飛び出す。
「!!!」
完全に目を疑った。
マウンドにいたのは役目を終えたはずの“コウタ”!
(マジかよ…)
ゆったりと観戦するつもりだった決勝戦。
再び極度の緊張に体中が包まれた…。
つづく