「秋季大会」は準優勝という結果に終わった。
県大会出場を懸けた準々決勝では投手戦を制し勝利。
大会屈指の好投手との対戦となった準決勝は、先制されたものの、キャプテンの決勝打で逆転勝ち。
そして決勝戦は、延長特別ルールの末敗戦し、準優勝という結果だった。
優勝は逃したが、非常に実りのある大会になったのではないか、と思う。
昨年は県大会を制し、全国大会へと進んだ三ヶ日中学だが、当時の先生は他校へと移動し、新卒の先生が指揮することになって始まった新チーム。
34人という大所帯のチームを、さらには全国大会へ進出した中学を受け持つことになり、先生には相当プレッシャーもあったと思うが、コチラにも伝わるほどの熱意で“結果”を残すことができた。
今回の結果で少なからず、「ほっ」とされているのではないか。
子供たちにとっても大きな“収穫”があったのではないだろうか。
先に行われた「中日旗西部大会」でよもやの初戦敗退からチームは混迷を極めた(のではないかと思う)。
それを実証するモノとして、今大会前に背番号が大きく変動した。
三ヶ日中学にとって、大きな不安の中での「秋季大会」だった。
そんな中、子供たちは試合を重ねるごとに“自信”を取り戻し、決勝戦まで辿り着いた。
決勝戦は中盤まで、チーム全体が“ポワ~”とした雰囲気で進んでしまったのは残念だが、同点に追いつき延長に持ち込むあたりは“さすが!”と思わせてくれた。
これで県大会出場。
目標である「全国大会」を目指すことができる。
ただ、試合中にすごく気になることがあった。
プレーではない。
“隣り”のおじさんについてだ。
3mほど横にいたおじさんは、試合中ずっと“解説”をしていた。
(もちろん独り言ではなく、お連れさんに説明をしていました)
聞くつもりはなかったのだが、変に小声でしゃべるので逆に耳に入ってきてしまった。
その話が実に“怖かった”のだ。
このおじさんは決勝戦を戦っているチームの父兄ではなかったのだが、非常に中学野球に詳しかった。
対戦相手のプレーを観ては「おっ、○○中学名物の○○だ!毎年このプレーをやらせるんだよなあ~」
なって言っている。
もちろん、三ヶ日中学のプレーにもコメントを入れてくる。
「さすが三ヶ日!打球が全然違うんだよなあ~」
さらには
「三ヶ日は練習量が違うんだよ。だから毎年強いんだよ」
(練習量が多かったのは遥か昔の話…。今は他と変わらないよ…)
なんて、心の中で突っ込みを入れてみたりして…。
「んっ!?三ヶ日はエース(背番号1)が投げてないゾ!三ヶ日くらいになるとBチームまであるから、これはBチームかもしれん」
(Bチームなわけないでしょ!そもそもBチームなんてないし!)
試合が終盤に差し掛かり、エース(背番号1)がマウンドへ上がると
「おおっ!三ヶ日のエースが出てきたゾ!毎年三ヶ日はピッチャーがいいんだよ!さっきまで投げてた子も良かったでしょ?去年も凄かったんだよ!」
(まあ、去年も今年もいいピッチャーがたくさんいますが…)
「1年生なんかは、三ヶ日とかと練習試合させてもらえるといいんだけどな~」
(んっ!?おじさんの息子さんは1年生ですか…)
「1年生大会は○○中は○○中と合同チームで出場するみたいで…」
(へ~、人数が足りないチームは合同チームで出るんだ~)
「三ヶ日みたいに数が多いとこはいいんだけどね~」
(1年生は10人しかしません!)
そのおじさんの方にちらっと目をやると、周囲に目がいってしまった。
試合会場は人でごった返していたのだ。
注意深く会場内を見渡すと、あらゆる場所で、時には選手を指さし、“中学野球談議”が行われていた。
先生と思われるユニフォームを着た大人、準決勝で敗退した父兄、さらにはゴール裏に陣取るおばあちゃんたちも、プレーを観ながら“アーダコーダ”言っている。
寒気が走った。
知らない人達が、余所の子供を指さし、「あれはダメ、あれはいい」なんて話をしている。
小学校の時には体験したことがない光景が“そこ”にはあった。
日本人にとって野球とはまさに“国民的”スポーツ。
みんなルールがわかっているし、プレーの善し悪しの判断もつく。
目の前に野球があれば、自分の子供がいようがいまいが関係なく“観ちゃう”し、“アーダコーダ”言っちゃうのだ。
決して否定している訳ではない。
これも野球の楽しみ方であるし、醍醐味でもある。
ただ“怖かった”。
当支部も来月には「1年生大会」が開催される。
三ヶ日中学野球部の1年生は“たった”10人…。
しかも、世間が思っているような“三ヶ日中レベル”でプレーできる子は2人しかいない…。
俗に言う「谷間世代」。
コウタの希望ポジションは「ピッチャー」。
中学に入ってから、一度も他のポジションを練習したことがない。
試合に出場することがあれば「ピッチャー」ということになる。
コウタが投げていることを想像したら、“アーダコーダ”言っている声が怖くなってきたのだ。
コウタはチームの中でも“図抜けて”野球がヘタだ。
おまけに足は遅く、力もない。くわえて背も小さく、ガリガリ…。
誰も人間性なんて観てくれない。批判・評論の矛先は全てがプレー。
だから“怖く”なったのだ。
―――――
最近は時間がある限り練習も観に行くようにしている。
2年生の顔と名前を覚えたい、というのがひとつめの理由。
子供が所属するチームは、この世で最も愛するチーム。
となれば選手の顔と名前は覚えておきたい。
最近では顔と名前が一致する子が増えてきたので、試合を観に行っても楽しさが増している。
もうひとつはコウタが頑張っていられるか。
今は健康で野球ができても、「いつどうなるか」わからない。
来年になっても野球ができていられるとは限らない。
だから野球がやれているうちに、少しでも目に焼きつけておきたい。
頑張るコウタの姿を少しでも長く観ていたいのだ。
まあ、その姿を観ていると、“怖がって”いる自分がバカらしくなってくるのも事実。
外野の声など関係ない。どうでもよくなる。
親ができることは子供を信じることだけ。
それしかない。
コウタが中学に入って最初に持った目標である「背番号1」。
入部以来、ここまでは一度もブレることなく追い続けてくることができた。
適任者が他にいることは誰しもが知っている。
相変わらず大した球は投げられない。それも誰しもが知っている。
だが、コウタが「背番号1」を目標に頑張っていることも、誰もが知っている。
コウタは気付いているだろうか。それだけで目標のほとんどを達成しているということを。
ここまで頑張れたことこそが一番の“収穫”!
「1年生大会」は2週間後。
それまでに背番号が手渡されることになる。